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2022年 マスターズ
期間:04/07〜04/10 場所:オーガスタナショナルGC(ジョージア州)

少し大きめ 松山英樹とグリーンジャケット1年間の旅路

◇メジャー第1戦◇マスターズ 最終日(10日)◇オーガスタナショナルGC(ジョージア州)◇7510yd(パー72)

1年前、「マスターズ」を制した松山英樹はその日の深夜にオーガスタを発ち、帰国の途に就いた。乗り継ぎの空港で、小脇に大事そうに抱えていたグリーンジャケット。それは後から日本に届けられた名前入りのガーメントバッグの中で、何度か“主人”とともに太平洋を往復した。

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自ら選んだ少し大きめのジャケットは、帰りを待っていた妻や両親の身体を包み込み、まだ幼い愛娘には少々、裾を引きずられた。袖を通してもらった親類には昨秋に急逝した祖母もいる。早藤将太キャディをはじめとするオーガスタで一緒に戦ったサポートチームの面々、キャリアを後押ししてくれた先輩プロの丸山茂樹谷原秀人らにも着てもらえた。

◆チャンピオンへのもてなし

優勝して最初の再渡米となった5月のこと。国際線でテキサスの空港に降り立ち、松山は国内移動のため契約するプライベートジェットに乗り継いだ。首をすくめて入った機内で顔を上げると、壁にはグリーンジャケットの形に切りそろえられた緑色の紙が、いくつも飾られていたという。「僕が操縦する飛行機にマスターズチャンピオンが乗ってくれるなんて本当に光栄だ」。男性パイロットたちが松山を出迎えるため、手作りしたものだった。

米国の自宅はフロリダ州オーランドのゴルフ場にある。別のPGAツアー選手やプロコーチも在住するコミュニティには優勝後、クラブハウス前の車寄せに「マスターズチャンピオン、 ヒデキ・マツヤマのホームコース」と記された看板がデカデカと掲げられた。松山を心から祝福し、誇りに思ったのは何も日本人だけではない。

手厚いもてなしは、練習がてら別のコースに行っても続いた。「マスターズ優勝、おめでとうございます。お代は結構です」。欧米では多くのゴルフ場でツアープロのプレーフィが無料だが、優勝後は松山と同伴競技者の分までタダになることが増えた。

マスターズの慣例で、グリーンジャケットをオーガスタナショナルGCの外に持ち出せるのは前回大会の優勝者だけ、つまり勝ってから1年限定である。翌年大会以降はクラブハウス内のチャンピオンズロッカーに収め、着用はクラブ内でしか許されない。勝者の証しを携えた旅路はどこへ行っても歓待された。それは必ずしも目に見えるモノだけではない。

◆称号は1年限り

その声を待つ、わずかな静寂に胸が高鳴る。各試合のスタートティでは決まって、同じ紹介アナウンスが響いた。「カレント(current=現在の)マスターズチャンピオン ヒデキ・マツヤマ」。雨の日も、風の日も、同じ組の選手の中でひときわ大きな声援を浴びて第1打を放っていく。「これほど気持ちいい、うれしいことはない」。海を渡って8年余り。目標にしてきたメジャー王者、マスターズ王者という称号に対する米国での反応は想像していた以上のものだったのかもしれない。

「もっとたくさん着ておけば良かった」。今年1月2日、新年の初戦に臨むためハワイへ発った松山の手には緑のガーメントバッグがあった。年明けの遠征は「マスターズ」まで続く。グリーンジャケットが再び太平洋を渡り、日本の地に降り立つ日が来るだろうか。そう思えば、いっそう寂しさが漂った。

オーガスタナショナルGCに到着した前週の日曜日、ジャケットはクラブに返還された。マスターズのスタートティでは「ディフェンディングチャンピオン」とは紹介されない。「先週(バレロテキサスオープン)が最後で、寂しい思いがした。また勝てばそう言われると思うので頑張りたい」。史上4人目の連覇を狙った戦いは14位。開幕前に口にした願いは、かなわなかった。

ジャケットとともに過ごした1年間は、松山のキャリアに貴重で、甘い時間をもたらした。サインを求めるファンの眼差しには、羨望(せんぼう)と尊敬がいっそう込められているのが分かった。

◆変わらない本質と情熱

だが周囲の反応が変化しても、彼自身の本質、ゴルフへの情熱は変わらない。体を鍛え、スイングに悩み、より良いギアを追求して勝負に、一打に、こだわる。

話は戻って昨年5月、マスターズ優勝後、ツアー復帰を控えてフロリダで練習を再開したときのことだ。とあるゴルフ場での、サポートスタッフたちとのプライベートラウンド。最終ホールでショットを池に入れた松山は、おもむろにシューズと靴下を脱ぎ、足首まで水につかってウォーターショットにトライしたという。

日本中の、世界中のゴルフファンが見守る公式戦でのシーンではない。日々の練習ラウンドのひとつにすぎず、同じ空間には一流選手も、パトロンもいない。ハンディキャップはあるにせよ、真剣勝負で負けそうになったことが許せなかった。そんな姿にも、彼に一番近いチームメートたちは驚かない。早藤キャディは裸足のボスに「これから練習しますか?」と事もなげに聞いた。

西日を浴びたオーガスタ。スコッティ・シェフラーをたたえる緊張の表彰式を終え、ちょっとだけ大きめのジャケット姿で白亜のクラブハウスに消えた松山の表情は穏やかだった。いつかまた、あの瞬間、あの時間を。マスターズチャンピオンはまた強くなる。(ジョージア州オーガスタ/桂川洋一)

桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール

1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw

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