石川遼「今の自分の力を理解できた」最終ステージ進出ならず/一問一答
野球でいえばマイナーからメジャーへ 石川遼選手の選択は合理的/小林至博士のゴルフ余聞
石川遼選手が残念ながら最終ステージにたどり着けなかった米男子ツアーのクオリファイング・トーナメント(通称Qスクール)。予備予選、1次予選、2次予選、最終ステージの4段階で構成されており、最終ステージの順位に応じて、翌年の米下部、コーンフェリーツアーの出場優先順位が決まる。
シーズンを通してのフル出場(1月から8月まで、プレーオフを除く23試合)が約束されるのは優勝選手だけで、2位~10位は最初の12試合、11位~40位までは最初の8試合までしか保証されていない。好成績を残し続け、賞金ランク上位25人に入るか、同ランク上位75人+米ツアーのシード権を喪失した選手で争うプレーオフで25位以内に入れば、夢の米ツアーシード権を獲得できる。実に険しい道のりである。
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1990年に誕生(当時の名称はベン・ホーガン・ツアー)して32年の歴史を数えるこのツアーのレベルはとても高い。世界で2番目にレベルが高いといわれる欧州ツアーに匹敵するというのが定説だが、世界最高峰の米ツアーに直結する唯一のツアーであることを考えれば、それも道理といえよう。
実際、米ツアーの75%はコーンフェリーツアーの卒業生で構成されている。ジェイソン・デイ、ブライソン・デシャンボー、ジャスティン・トーマス、バッバ・ワトソンらもその一人である。賞金も高い。来季各大会の賞金総額は最低75万ドル(8550万円)、優勝賞金はその18%、約1500万円と設定されている。日本ツアーに匹敵するレベルの賞金額で、野球界に身を置いてきた私からすると、ちょっと驚きである。
コーンフェリーツアーは、野球でいえばマイナーリーグである。野球界において、日本のプロ野球(NPB)のレベルは、MLBとAAA(米マイナーリーグの最高ランク)の間、AAAA(クアドルプル・エー)といわれる。NPBでプレーも経営もした私としては、この言われようにはムッとするが、まあ、第三者的に見ればその通りである。
しかし、報酬には大きな違いがある。日本のトップリーグであるNPBの平均年俸は、1軍選手が1億円で、最低保証が1600万円、2軍選手でも440万円の最低保証がある。一方、AAAの選手の平均年俸は180万円である。これがMLB(メジャー)選手となれば、最低保証が6000万円、平均年俸は4億円。メジャーとマイナーは、天国と地獄であるかのような描写がされることが多いが、その通りなのだ。
それこそAAAAの選手にとっては、アメリカン・ドリームよりもジャパニーズ・ドリームとなる。なぜなら、契約にこぎ着ければ5000万以上が相場で、その年にレギュラーに定着すれば、1億円は確実だ。タイトル争いをするような活躍をすれば、3億円以上の複数年契約が待っているし、近年は、MLBに好条件で復帰するケースも増えている。
コーンフェリーツアーの位置づけは確かに“マイナーリーグ”だが、前述のように、日本ツアー並みの賞金はある。そしてなによりも、結果を残せば “世界”への扉が開かれる地である。移動や言葉の不便、日本にいるからこそのスポンサー契約は失われたとしても、そこを目指し続けるという石川選手の選択は、NPBでプレーする外国人選手と同様に、合理的に思える。(小林至・桜美林大学教授)
- 小林至(こばやし・いたる)
- 1968年生まれ。江戸川大学教授を経て、2020年4月から桜美林大学(健康福祉学群)教授。92年、千葉ロッテにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌年からアメリカに在住し、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)取得。2002年から江戸川大学助教授となり、05年から14年まで福岡ソフトバンク球団取締役を兼任。「パシフィックリーグマーケティング」の立ち上げなどに尽力。近著に『スポーツの経済学』(PHP)など著書多数。