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小林至博士のゴルフ余聞

ゴルフのアマチュア規則見直しは時代の要請

2020/01/26 18:00

2020年は、オリンピックイヤーであるのと同時に、ゴルフ規則改正の年でもある。ゴルフの規則は、全米ゴルフ協会(USGA)と全英ゴルフ協会(R&A)が統括しており、4年ごと、夏季五輪と同じ年に大規模な見直しが行われることになっている。うるう年でない昨年に、旗竿を立てたままでパット、カップインが認められるようになったり、“遠球先打”にこだわらず、準備できたプレーヤーから打てる、赤杭内もソールOKなど、歴史的変更がなされたのは、東京五輪を踏まえての前倒しである。

五輪は、一般論として、観戦者フレンドリーな競技を採用する。熱心なロビー活動が実って、2016年リオ大会において、112年ぶりに五輪競技に復活したからには、末永く残留したいと思うのは当然のことだろう。ルールの簡素化と、プレー時間の短縮は時代の要請でもある。そんな前倒しのために、2020年は大規模な規則変更はないが、アマチュア規則に関する全面的な見直しをすることをUSGAとR&Aが公表している。

ゴルフは、アマチュアを「資格」として保護対象としている数少ないスポーツである。プロとアマに対する、一般の認識は、その競技の能力をもって報酬を受け取るレベルに達したものがプロで、そこまでいかない人がアマという塩梅だろう。実際、サッカーの統括団体であるFIFAは「クラブと契約を結び、日常の出費を上回る給料をサッカー活動により支払われている者」と定義しており、プロクラブと契約を結ぶに至らない選手、契約を結んでいてもごく少額に留まる選手はプロとはみなされない。

しかし、ゴルフにおいては、アマチュアは、金銭的利益や私的な便宜を享受することは一切禁じられており、それに違反した場合は、アマチュア資格を喪失する。こうした厳格なアマチュア規定を有しているのは、私が知る限り、他には日本の野球界くらいである。もっとも、日本の野球におけるアマチュア規定の厳しさはゴルフの比ではなく、アマとプロが同じ競技会やイベントに参加したり、指導を受けたりするのが日常的なゴルフに対して、日本の野球界はアマとプロは原則として、交流出来ない。

そもそもスポーツにおけるアマチュアという概念は、産業革命後にイギリスで、資本家階級が、労働者階級を競技会から排除するために創造されたものである。このアマチュアリズムを、イギリスを畏敬するフランス人男爵のクーベルタンが、近代オリンピックを創設するにあたり、その基本精神としたことで世界に浸透したのだ。ゴルフもその慣習に従い、1934年にアマ規則を設けた。しかしソ連をはじめとする東側諸国の選手が、実際はスポーツで生計を立てていながら「社会主義にプロは存在しない」として五輪を席巻していたことや、みるスポーツがビジネスとして成長していくなか、1974年、五輪はアマチュア規定を放棄した。

いまや、ほとんどのスポーツにおいて、アマチュアという言葉は、先に記した通り、その競技をもって生計を立てる域に達していない(あるいはその気がない)愛好者を指す、本来の語義に立ち返っており、区別する概念としては死語となった。アマチュアリズムの最後の牙城と言われていたNCAA(全米大学スポーツ協会、アメリカの大学の統括組織)も、数々の訴訟と世論のプレッシャーに押される形で、学生選手への報酬支払いを容認する方向に舵を切った。USGAとR&Aによるアマチュア規則の見直しも、そうした時流を踏まえてのものになるのだろう。(小林至・江戸川大学教授)

※約5年前に出版した拙著『スポーツの経済学』(PHP研究所)を2019年末に改訂しました。東京五輪開催を目前に、成長著しいスポーツ産業の最新事情をキャッチアップし、観るスポーツの入門書として分かりやすさを向上したつもりです。ご興味をお持ちの方は、[新装改訂版]を是非!

小林至(こばやし・いたる)
1968年生まれ。江戸川大学教授を経て、2020年4月から桜美林大学(健康福祉学群)教授。92年、千葉ロッテにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌年からアメリカに在住し、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)取得。2002年から江戸川大学助教授となり、05年から14年まで福岡ソフトバンク球団取締役を兼任。「パシフィックリーグマーケティング」の立ち上げなどに尽力。近著に『スポーツの経済学』(PHP)など著書多数。

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