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<選手名鑑226>パット・ペレス(後編)

■PPAP (Pat Perez Angriest Player)

パット・ぺレス(40)はPGAツアー入りした02年当初から、ショートテンパー(短気)でも知られ、Angriest player(怒り最上級の選手)とか、Hottest Player(最も熱くなる選手)と言われていた。そのきっかけが今大会のAT&Tペブルビーチプロアマだった。

前年のQスクール(出場権獲得試合)1位で合格し、02年シーズンが始まって5試合目、自身にとって4試合目となるAT&Tペブルビーチプロアマに出場。月曜日は粉雪が舞い散るほど寒く、ペレスはその中で練習ラウンド敢行し、風邪をひいてしまった。大会前日の水曜日には高熱で体の節々も痛く欠場も考えたほどだった。体調は最悪だったが、不思議なことにゴルフは絶好調で、最終日は15アンダーからの首位発進となった。2位のマット・ゴーグルとリー・ジャンセンに4打差をつけ、初優勝がグッと近づいた展開でペレスは首位を維持して迎えた14番(パー5)、2打目に悪夢が待っていた。フェアウェイからの3Wのショットが右方向に飛び出しOB。次の瞬間、持っていた3Wを芝はおろか、地面に大きな穴があくほど叩き続けた。

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その後、2バーディを奪取し、2位のゴーグルに1打差首位で18番へ。左サイドに広がる海は選手にプレッシャーをかける。ペレスの1打目は海を避けるように右へ飛び出し、ボールは無情にもOBラインを30cmほど超えていた。それでもボギーに抑えることができれば、優勝の可能性を残す展開に。勝負を賭けたフェアウェイからの4打目は、左に引っかけて海へ。その時点で初優勝の夢は海の藻屑(もくず)と消えた。その直後にまたも、持っていた3Wで激しく地面をたたきつけ、それでも怒りが収まらず、今度は膝でクラブを真っ二つに折った。優勝はゴーグル、ペレスは2位で終了。優勝争いだけでなく、ペレスの怒りの場面はテレビで一部始終映し出され、美しいコースを破壊する行為を見て、心を痛めたファンは少なくなかった。ペレスはツアーから罰金が課せられただけではなく、“Angriest Player”というレッテルを張られることになったわけだ。ツアーは怒りをコントロールするためのセラピーに行くことを勧めたが、ペレスは頑として断った。

■リアル・ペレスは世話好き&料理好き

沸点に達したら誰も止められないペレスだが、実は思いやりにあふれた優しい男だ。ペレスの個人サイトでは、ファンにフェニックスオープンの観戦チケットを数多く贈呈するなどファンを大切にし、地元の大会を盛り上げようと奮闘している。ベトナム退役軍人の父とともに、負傷した軍人やその家族を支援しようと「オペレーション・ゲーム・オン」というチャリティートーナメントを毎年開催し、寄付だけでなく様々な交流は、彼のモチベーションになっている。

学生時代からの親友ジェイソン・ゴアはペレスの良き理解者で「怒りは彼(ペレス)自身に向けられたもの。心根はとても優しい男」と言う。アリゾナ在住のアーロン・バデリーは、ペレスと練習ラウンドを頻繁に行うだけでなく、趣味の料理でも意気投合する仲。ペレスはジェイソン・コクラックら選手同士で家をシェアして転戦する際は、飲み物やスナックの買い出しから夕食も担当。しかも手の込んだ料理で、繊細な一面を見せるそうだ。

■No Pain, No Gain

ペレスはペブルビーチでの愚行を猛省し「二度と同じことはしない」と言い聞かせプレーするようになった。しかし、そんな思いとは裏腹についつい感情が溢れ出し、失敗が続くと同じような行為をしてしまう。うっかりFワードが飛び出してしまうこともある。ペレスという逸材を何とか助けようと、PGAツアーや周囲は、メンタルケアやトレーニングを勧めた。ペレスは数えきれないほどの人物に会い続け、11年が経過。4年前の2013年にメンタルコーチのクリストファー・ドリスに出会い、指導を受けるようになった。ドリスはプロゴルファーをはじめNFL、NHL、五輪選手など、多くのスポーツ選手のサポートで功績をあげてきた。彼が携わる分野はスポーツの枠を超え、フォーブス誌選出の100社に名を連ねる企業などでも指導し、全米を飛び回るフェニックス在住の人物だ。

指導を受け始めた翌14年はポイントランク98位で前年と同じ。変化の兆しはあまりなかったが、「あの時(02年「AT&Tペブルビーチプロアマ」)と比べたら大きな進歩」と心の中に芽生えた何かに気づき始めた。そして15年はランク45位まで上昇し、大きな手ごたえを得た。

実はその頃、ペレスの私生活に大きな変化があった。前夫人が結婚3年目に「今の生活を終えたい。離婚してほしい」と去っていき、かなりショックを受けていた。そんな彼の前に現れたのがアシュリー・ペンドリー(現夫人)。朗らかでセクシー、音楽も大好きな女性で、ペレスは彼女の魅力にノックアウトだった。PGAツアーのフラッグシップ大会ザ・プレーヤーズ選手権では毎年、選手夫人が競う“Wives Classic”が行われ、彼女は13年大会に出場した。彼女はいつも笑顔で、マナーやエチケットも素晴らしい人物で、正直に言うと・・・ペレスとは対極だった。彼女と付き合い始めてから、激情型スタイルは穏やかになり成績も上昇。ペレスのものすごい葛藤と、努力の賜物だ。

■左肩負傷で237日離脱 復帰3試合目の劇的優勝

16年シーズンを前に、彼は期待に満ちていた。ところが3月上旬、フロリダ州で開催のバルスパー選手権に向かう前に左肩を負傷し手術。その後、長期リハビリで16年シーズンを棒に振った。復帰したのは、同年10月にマレーシアで行われたCIMBクラシック。実に33週間、237日ぶりのプレーだった。同大会は16~17年シーズンの2戦目で、ペレスは公傷制度が認められ、今季は15試合でプレーが可能だ。その15試合のうち、前シーズンのポイントもしくは賞金ランク125位の額に到達すれば、シード権獲得という厳しい立場だった。クリアするにはポイントでは420点、賞金では67万50ドルを必要とし、達成には最低でもトップ5が4回ほど必要だった。

だが15年連続でシード権維持の本領を発揮し、復帰3戦目だったOHLクラシック・マヤコバで優勝を飾って、2年間のシード権を獲得。最終日に「67」をマークし、ゲーリー・ウッドランドを逆転し、通算21アンダーは大会タイ記録だった。印象的だったのはペレスがミスをした時の様子だ。クラブを放り投げたり、叩きつけたりする一歩手前で踏み止まり、グッと我慢している姿が印象的。短気爆発のペレスは消え、ひと回り大きくなっていた。この優勝でマスターズ、ザ・プレーヤーズ選手権への出場を決め、意気揚々と「ライダーカップにもプレジデンツカップにも、代表選手として出場を目指す」と宣言した。その表情には「これからがオレの旬(しゅん)。やってやるぜ!ファンがLove me or hate me(オレを好きでも嫌いでも)!」と、漲る自信が見てとれた。

佐渡充高(さどみつたか)
ゴルフジャーナリスト。1957年生まれ。上智大学卒。大学時代はゴルフ部に所属しキャプテンを務める。3、4年生の時に太平洋クラブマスターズで当時4年連続賞金王に輝いたトム・ワトソンのキャディーを務める。東京中日スポーツ新聞社を経て85年に渡米、ニューヨークを拠点に世界のゴルフを取材。米国ゴルフ記者協会会員、ゴルフマガジン「世界トップ100コース」選考委員会国際評議委員。元世界ゴルフ殿堂選考委員。91年からNHK米ゴルフツアー放送ゴルフ解説者。現在は日本を拠点に世界のゴルフを取材、講演などに飛び回る。

関連リンク

2017年 AT&Tペブルビーチプロアマ



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