1位スピースが後続離す 石川遼は102位で16年初戦へ/男子世界ランク
2016年 ヒュンダイトーナメントofチャンピオンズ
期間:01/07〜01/10 場所:プランテーションコースatカパルア(ハワイ州)
<選手名鑑180>スマイリー・カウフマン(前編)
■ 名実ともにトーナメント勝者のみのバトルが実現!
2016年はゴルフ界にとって特別な年だ。ゴルフが112年ぶりに五輪競技に復活。8月にブラジルのリオデジャネイロで、オリンピック競技としてのゴルフトーナメントが開催される。その影響でメジャー4試合、世界選手権など9月末のツアー選手権までビッグイベントの開催が凝縮日程で行われ、選手もファンも大忙し、エキサイティングな1年になりそうだ。
PGAツアーは常夏ハワイ、マウイ島で開催のヒュンダイトーナメントofチャンピオンズからリスタートする。今年は久しぶりに新年初戦を飾るにふさわしいフィールドと予想される。参加資格は前年チャンピオンのみというプレミア試合。だが、数年前まではタイガー・ウッズ、フィル・ミケルソンらは、日程やスポンサーなどの関係で参戦は見送り。欧州や南ア選手も自国の大会に出場するなどスケジュールの重複などで見合わせることが多く、プレミア試合の名を満たせないシーズンが続いていた。ところが今年の今大会は有資格者のほぼ全員が勢ぞろいする。オールスターキャストで本来の魅力が満載だ。
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世界ランク1位をかけて熾烈な争いを続けるジョーダン・スピース(22)、ロリー・マキロイ(26)、ジェイソン・デイ(28)のニュービッグ3。タイガー・ウッズ主催で昨年最後の試合ヒーローワールドチャレンジ(ポイント対象外試合)に優勝したバッバ・ワトソン(36)、リッキー・ファウラー(26)らトップランカーが出場。昨年10月から始まった若手3連勝のシーズン開幕から、エミリアーノ・グリージョ(23)、スマイリー・カウフマン(24)、ジャスティン・トーマス(22)ら新世代の選手も加わり、雄大なプランテーションコースで激突する。その中で今回は開幕2試合目でツアー初優勝を果たしたカウフマンに注目したい。
■ スマイリー&ラッキー 命名にこめられた思い
“スマイル”と“ラッキー”。「笑う門には福来る」――そのもののチャーミングな名前のカウフマン兄弟。あまりに良い響きなので最初はペットの名前かと思ってしまったほどだ。だが、この命名には両親の強い思いがあった。弟の名ラッキーは大学ゴルフ部ヘッドコーチで名選手を育てた曾祖父オースティン・ラッキー・カウフマンからミドルネームを継承した。兄のフルネームはカーター・スマイリー・カウフマン。祖母のいとこにスマイリー・ジェブハートというアメリカンフットボールの著名選手がいて、彼の名を受け継いだのだ。
ジェブハートは1971年ジョージア工科大学フットボールのディフェシブエンドとして活躍。スポーツだけでなく勉学にも優れ、将来が楽しみな若者だった。卒業後は指導者となり、ハンサムで頼りがいがあり、周囲から「娘がいたら、最も夫になってほしい男」と言われていた。しかし、80年に不慮の事故で脊髄性の病気を発症し、四肢麻痺になり歩行困難だけでなく生活にも不自由をきたした。それでも病気に立ち向かい、リハビリの限界に挑戦していた。そんな中、強い要請を受けミシシッピ大学フットボール部のヘッドコーチに就任した。学生たちに技術はもちろん、スポーツマンシップを伝え、2001年に胃ガンで亡くなるまで懸命に生き抜いた。短い生涯だったが多くの人の記憶に残る伝説のコーチ、ジェブハートはカウフマン家の誇りだった。両親は長男が誕生した時、我が子にジェブハートのように笑顔と勇気を持つ子に育ってほしいと願いをこめて命名したのだった。
■ カウフマン兄弟の行動力
僕が初めてカウフマン兄弟を知ったのは9年前。当時15歳のスマイリーと、2歳下の弟ラッキーがメジャー開催で知られ、アラバマ州の名門ショールクリークGCでガン闘病中の子供たちへのチャリティイベントを成功させた、という記事だった。兄弟は「Kids vs. Cancer」という基金を設立。彼らが1日に何ホールをプレーできるか?というマラソンゴルフの挑戦を企画、兄弟は約千人に寄付を募る手紙を書いて送った。スマイリーは自身の名にこめられた意味を知って以来、何か行動をおこさねばと考えていたが、ようやく機が熟したのだった。
酷暑アラバマの8月7日、朝6時半、35度を超える炎天下でのプレーが始まった。応援にかけつけた人たちは「50ホールできるかどうか?」と予想、何より兄弟の体調を案じた。12時間以上が過ぎ、陽が陰り始めた頃、2人は100ホールを完遂。寄付金の総額は予想をはるかに超える1万8千ドルで全額を米国ガン協会へ寄贈。カウフマン兄弟のピュアな思いと行動力に脱帽だ。
翌年から他のジュニアも参加し数か所で行われ規模が大きくなっていった。加えて開催コースのオーナーから「チャリティに参加したジュニアたちをマスターズ月曜の練習ラウンド観戦に招待」という特典も加わった。スマイリーは授業で参加できなかったが、弟ラッキーは目の前でタイガー・ウッズのプレーを目撃するなど貴重な経験をした。チャンピオンになったスマイリー、時にキャディとして兄をバックアップするラッキーは今後も大好きなゴルフで力を合わせ活動の幅を広げていくだろう。
※次回はカウフマンの家族、プライベートと仲間たち
- 佐渡充高(さどみつたか)
- ゴルフジャーナリスト。1957年生まれ。上智大学卒。大学時代はゴルフ部に所属しキャプテンを務める。3、4年生の時に太平洋クラブマスターズで当時4年連続賞金王に輝いたトム・ワトソンのキャディーを務める。東京中日スポーツ新聞社を経て85年に渡米、ニューヨークを拠点に世界のゴルフを取材。米国ゴルフ記者協会会員、ゴルフマガジン「世界トップ100コース」選考委員会国際評議委員。元世界ゴルフ殿堂選考委員。91年からNHK米ゴルフツアー放送ゴルフ解説者。現在は日本を拠点に世界のゴルフを取材、講演などに飛び回る。