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「ゴルフは平和の象徴だ」ZOZO前澤社長インタビュー

タイガー・ウッズが5年ぶりの復活優勝を遂げた9月の「ツアー選手権」。アトランタのPGAツアー(米国男子ツアー)会場で、外国人記者が言った。「日本人が今度、月に行くんでしょう?」。大手ファッションサイトを運営する株式会社ZOZO(10月1日付で株式会社スタートトゥデイから社名変更)の前澤友作代表取締役社長がスペースXの超大型ロケット「BFR」で、民間人として初めて月周回旅行に挑戦するという。しかも、今後選ぶ最大8人のアーティストを引き連れて。

「ところでこの会社の名前、なんて読むの? ズズ…?」 ……ズズじゃねえし、ゾゾだし!

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あれから2カ月後の11月20日、巷で話題のZOZO前澤社長は新たなプロジェクトを公にした。2019年10月、世界最高峰のゴルファーが集まるPGAツアーのトーナメントを史上初めて日本で開催する。その名は「ZOZO CHAMPIONSHIP(ゾゾチャンピオンシップ)」。日本男子ツアーとの共催競技として、両ツアーのトップ選手が千葉県の習志野カントリークラブキング・クィーンコースに集結する。日本のゴルフファンが待ちに待った夢の時間を演出する、時の人に話を聞いた。(聞き手・構成 桂川洋一)

■43歳の誕生日の前に

「それはもしや、レフティのクラブじゃないですか?」

どれほどの億万長者だとしても、クラブの前では彼もひとりのゴルファーだということが分かる。撮影用に持参した左利きのウェッジを目ざとく見つけた前澤社長は、まるで子どものような表情で手に取ってながめた。

「このシャフトはなんですかね? ダイナミックゴールドですか。僕もクラブを持ってくればよかったかな」

東京都内のホテルの一室。数時間前までPGAツアーの幹部、日本ゴルフツアー機構(JGTO)の青木功会長、そしてPGAツアーを主戦場にする現役選手・松山英樹とともに新規大会開催の記者会見に臨んでいた。緊張感から解放されると、自然とゴルフへの情熱が言葉になってあふれてくる。

「ドライバーは47.25インチと長めのものを使っています。(テーラーメイドの)M4を。ロフト角は10度。アイアンはタイトリストのAP3。最近、替えたんですけどね。でも、以前使っていたAP2の方が、音が良いんですよ。AP3はちょっとキャビティっぽい音がして、打感もちょっとね。だからAP2にもう一回戻そうかなって…」

インタビューの時間は限られている。まだひとつも質問をしていない。こちらが制さないと、聞きたいことを聞けなくなりそうだった。

―「ZOZO CHAMPIONSHIP」の開催記者会見を終えた気分はいかがですか。2日後(11月22日)に43歳の誕生日を控えた中での発表となりました。

「そうなんです。やっと発表できて一安心。会見には松山選手が出席してくれてうれしかった。あと、青木さんにこの場でお会いできたこともうれしかった。僕の父より年上(青木は76歳)ですが、レジェンドですから。大会の開催にあたり、事前に食事も、お話もしました。気さくな方ですよね。JGTO会長として今後のゴルフ界のことをすごく考えていらっしゃる。我々にも本当に大きな期待をかけてくださっている。その期待に沿えるよう新しい何かをしたいですね」

―2018年はゴルフに限らず、事業、民間人初の月周回計画であり、宇宙を舞台にしたアートプロジェクト「#dearMoon」などいたるところで会見に出席されました。

「ホントですよ! 会見に次ぐ会見…会見づいています。けれど、スポーツ関連では今回が初めてでした。ゴルフのマニアックな質問が来るのも良いですよね」

毎年秋に開幕し、翌年の夏をシーズンの最後とするPGAツアー。「ZOZO CHAMPIONSHIP」は2019―20年シーズンから年間45試合前後が組まれるスケジュールの序盤戦、韓国、中国での開催試合とともにアジアスイングのひとつとして行われる。賞金総額は975万ドル(約11億円)。優勝者には優勝賞金175万ドル(約2億円)と翌シーズンから2年間のシード権が付与される。タイガー・ウッズダスティン・ジョンソンジョーダン・スピースといったスーパースターが出場する可能性がある一方で、出場78人のうち10人は共催となる日本ツアーから参戦する。

―PGAツアーからスポンサー就任のオファーが届いたときの心境を「驚いた」と。その真意は。

「『ウチなんかでいいの?』というところです。歴史と伝統のあるPGAツアー、名だたる伝統的な企業さんが各大会のスポンサーを務めている。だから『ZOZOでいいんですか? 他に候補があって“スベリ止め”でお話に来ているんじゃないですか?』って聞き直したくらいです。『本当に良いなら、マジで考えますんで、“ちょっとだけ”待ってください。他に交渉している企業はあるんですか? 待っていただいたら、うちですぐに検討するんで』という感じで」

―決断までの“ちょっと”とは、どのくらいの時間でしょう。

「結構すぐ。1、2週間くらいでした(笑)。PGAツアーさんはJGTOさんとスケジュール調整を急いで進められていた。我々としてはラッキーですし、こういう機会をいただいて本当にありがたい」

■ゴルフは平和の象徴だ

現代の経営者らしく、SNSを積極的に活用して情報を日々発信する。刺激的な言葉はバズり、時に炎上もする。インスタグラムには自身のスイングもアップしてきたが、「ゴルフ好き」の細かいところはベールに包まれていた。クラブを初めて握ったのは30歳のとき。知人の経営者に誘われた。それまでは「ちょっとオヤジ臭いスポーツだなと思っていた」と正直だ。だが「やってみたら、その難しさと深さに魅了された」という。ハンディキャップはベストで「5」まで縮めたことがある。

―ゴルフの魅力とは何でしょうか。

「老若男女、誰でもプレーできること。プレー中にコミュニケーションを取れること。これがなかなか良い。現に僕は父とゴルフをするようになった。子どもとは、まだラウンドはしていないんですけど、一緒に練習場には行きます。『なんでパパ、そんなに飛ぶの?』って聞かれたりすると、自慢げになりますよ。ゴルフは家族でもできるし、性別や年齢だったり、国籍だったりをすべて越えて一緒にプレーできるスポーツ。“イコール・平和の象徴”という感じがする。自分たちの作っているファッションブランド、ZOZOはみなさんの体型を計測(ZOZOSUIT/後述)して、どなたにも似合うウエアを提供する。その点で、誰でもプレーが楽しめるゴルフとコンセプトが近いなと思うんです」

―ZOZOはJリーグのジェフユナイテッド市原・千葉のスポンサーでもあり、2016年末にはプロ野球・千葉ロッテマリーンズの本拠地のネーミングライツを取得して呼称を「ZOZOマリンスタジアム」としました。そして今度はゴルフに進出。「ZOZO CHAMPIONSHIP」は賞金総額だけで975万ドル(約11億円)。開催費用は毎年、数億円を要すはずです。6年契約なので、概算で数十億から100億円前後の投資になります。経営者として、PGAツアーのスポンサーになることはそれに見合う価値があると。

「開催にあたり、事業自体にもかなり参加できることになっています。例えば興行収入や物販に関するもの。そういったところでも、我々が持っているものを生かしていきたいです。ZOZOがPGAツアーの試合のスポンサーになることは、世界中にニュースとして広がる。株式会社ZOZOの認知度向上、並びにプライベートブランド『ZOZO』の販路拡大という可能性を感じています。今、プライベートブランド『ZOZO』は72の国と地域で商品を販売しています。間違いなくその72の国と地域でもPGAツアーは放映される(226 の国と地域に23 カ国語で放送)。そこは大きい。本当に期待しています」

―ZOZOは千葉県千葉市に本社を置き、前澤社長はかねて地元への愛情を口にしてきました。PGAツアーは米国のほかのスポーツと同様、地域密着・地元還元というコンセプトを大切にしている。大会の会場も千葉県の習志野カントリークラブキング・クィーンコースに決まりました。

「あまり大それたことは言うつもりはないんですけど、どうせだったら千葉で、というのは何をするにも思うんです。現にZOZOマリンスタジアムは千葉ですし、ジェフユナイテッド市原・千葉さんもちょっとですけど、微力ながらサポートしている。何かスポーツをやるときには千葉でやってきたので、引き続き千葉をスポーツの力で盛り上げていきたい。ただ、実際のところはゴルフコースに関しては、PGAツアーさんのメガネにかなう会場が必要になります。距離が長くて、練習場も広くて、ファシリティ面も充実し、大量の人が来場する…そういう意味でなかなか見合うコースは多くありませんでした。最後にアコーディアゴルフさんの協力を得て、習志野で開催できることになりました」

■アーティストとアスリートの境地

「最近はゴルフはサボりがちで、ハンディは9、10くらい」と言っても、週1回はクラブを握る生活を送っている。一方でゴルフをプレーするだけでなく、観ることも大好きで、PGAツアーのビッグファンのひとりである。2010年には米ジョージア州オーガスタで「マスターズ」、今秋にはフランス・パリで行われた欧米対抗戦「ライダーカップ」を生観戦した。

「ソニーオープンinハワイではプロアマ大会にも参加しました。一昨年はジャスティン・ローズ選手、去年はブライアン・ハーマン選手と一緒に回らせてもらった。ハーマン選手は僕と同じレフティ。すごく勉強に……いや、勉強にはならないですよね(笑)。彼らはあまりにもすごくて。ハーマンはダウンスイングでクラブが下りてくるポジションがもうすごい。セルヒオ・ガルシアと同じくらい、体に引きつけてインサイドから下ろしますよね。絶対振り遅れるんじゃないの、と思ってしまうくらい」

―前澤社長の持ち球は。

「いまはドローにしています。ハーマンと同じですが…いやでも、ハーマンのドローボールはキレイだったなあ。軽いオープンスタンスで打つんですよ、彼は。両足のスタンスは(アナログ時計で表すと)1時の方向にアドレスを取り、11時の方に打ち出して12時のラインに戻ってくる…」

―ロックバンドのドラマーとして活躍した前澤社長は公益財団法人「現代芸術振興財団」の設立者・会長でもあり、ジャン=ミシェル・バスキアの絵画を123億円で落札して話題になるなどアートに造詣があります。アーティストとアスリートに通じる部分はありますか。

「あるでしょうね。プロゴルファーも本当に過酷な戦いをどの選手もしていると思うんです。イップスになったりするのは、何かを突き詰めようとした結果、そこまで行きついてしまったメンタル面の話でしょう。トッププロが1mのパットすら思うように打てなくなって、10mくらい飛ばしてしまうこともある。そうなったら怖いですよね…。彼らは格闘している。僕はいまだ“経営イップス”になったことはないんですが、そうなったらと思うと怖いですね」

■孫さん、柳井さんともラウンド? 利き腕のマイノリティとゴルフ業界の未来

世界に先駆けて始めたZOZOSUIT(ゾゾスーツ)は、個々人の身体に合わせて採寸するボディスーツ。ドットマーカーが全身に配置されたスパッツのようなスーツと、カメラ付きのスマートフォンがあれば、体型サイズを瞬時に計測し、ユーザーそれぞれが体型に合ったウエアをインターネットで注文できる。背が低かったり、高かったり、太っていたり、痩せていたり。そんな“サイズのマイノリティ”を持つ人々を救うことにもつながった。前澤社長はゴルフで言えば“左利き”というマイノリティに属す。苦労は今もあるらしい。

―レフティのゴルファーにとって大変なことは何でしょう。

「まず練習場です。並んでいる打席の一番端っこで打たなくてはなりません。滅多にいないんですけど、自分より先に左利きの方が打っていると、打席がなかなか空かないんです。ひとつしかないから。だから、空いていないときは違う練習場に行ったりもしました。あとは左利き用のクラブのセレクションが少なく、国内で選ぶことが難しい。海外に行くと結構あるんですけどね。あとは…日本に参考になるトッププレーヤーが今、いないこと。それに、言い訳に聞こえたら嫌なんですけど、すべてのコースが右利き用に作られているような気がしてならないんです(笑)。なんかこれ、左利きは不利じゃない? なんて」

―それでも、ゴルフの魅力は右利き、左利きに限らずそれぞれの楽しみ方があることでしょうか。

「昔から相手と争うスポーツは好きではなかったんです。だから今も、楽しみたいというのが一番。実は試合も何回か出たことあるんです。「ミッドアマ」とか。でも僕は楽しくやりましょうという感じなんですけど、皆さん本気モードでガチなんで。僕の中では、ゴルフは自分との戦いなんです。本当にうまくいかないし、自分のフィジカルもメンタルも、もろにボールに出る。飲み過ぎた翌日は絶対にいいプレーができないし、何か考えごとをしていてもダメだし。集中力を養ったり、ここぞというときに力を出したりするための訓練としてもゴルフはいいでしょうね」

―ゴルフは人の性格を表すといいますが、そう思いますか?

「孫(正義)さん(ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長)と回ったときに、あまりの勝負強さにビックリしました。社長が「74」で回って、僕は「76」で負けたんです。良い戦いじゃないですか。でも何にビックリしたって、社長のパッティングですね。5mくらいのパットを2回くらい入れていた。『こりゃ、かなわねえや』と思いました。でも別の日に柳井正さん(ユニクロなどを展開するファーストリテイリング代表取締役会長兼社長)には勝ちましたよ、ゴルフではね!(笑)」

―普段、ゴルフウエアはどんなチョイスを。

「人とカブるのがイヤなんで、ゴルフウエアじゃないものを着ています。あと、合うサイズが結構ないんで。可能であればZOZOで作れたらなあって思います。特にポロシャツなんかは作り始めとしてはいいじゃないかなんて」

―弊社GDOもEコマースでゴルフウエアを販売していまして…

「あ、そうか!(笑) でもそんなこと言わずお互い盛り上げましょうよ」

―ウエアや用具のみならず、ゴルフはプレーするためにそれなりの費用が掛かります。これからの業界をどう見ていますか。

「(ゴルフのプレーは)高いですよね。あと、クルマがないと結構厳しいですし。もっと安くならないですかね。ファッションもファスト・ファッションと言って、国内外のブランドが『クオリティを担保しながら、価格を下げてやってみよう』というトライが5年くらい前にあって、ファッション業界のムーブメントになりました。それによって世の中に“ファッション好き”がすごく増えたなと思います。ですから“ファスト・ゴルフ”じゃないですけど、もう少しお手軽にできる仕組みがあれば、おもしろいなと思います。一方でハイエンドなゴルフの伝統、歴史をしっかり感じられる術も必要。そういうのも守りながら、両軸でうまくやっていくと楽しいなと思います」

■想像と創造をつなぐもの

青木功は現在、日本ゴルフツアー機構(JGTO)のトップを務める。一方、1983年の「ハワイアンオープン」で、日本人として初めてPGAツアーを制した選手でもある。そのレジェンドは「できないんじゃないかと思っていたこと、夢だったことが日本で実現する」と感慨深げだった。「うれしいですよね。あんなことを言っていただけて…」

社名のZOZOは「想“像”」と「創“造”」に由来する。ImaginationとCreationの行き交いを意味している。ただ、ふたつの間にはいつも小さくない隔たりがある。それをつなぐことが長らくできなかったのも、日本のゴルフ界だったように思う。頭に描いたことを現実に。ふたつの“ZO”をひょいと跳び越えるために必要なものは何か。前澤社長は「思い切りです」と即答した。

「いっぱい失敗もしてきました。どうしても、表に出ている(世間が見る)のは、今あるZOZOの(成功の)形だけですけど、その陰には失敗もたくさんありました。僕たちは何事にもトライするのが得意な会社です。今回はPGAツアーでの大きなトライになりますけど、責任を持ってやります」

1971年、アポロ14号のアラン・シェパード船長は月面でアイアンショットを放ったという。人類史上、月の重力を使った最初のスポーツはゴルフだったのだ。

「当時、生まれていなかったのが残念です。まあ、僕は月面に降りるわけではなく、近くを通るだけなので。ゴルフボール…持っていくんですかねえ(笑)。それも、いろいろエンターテインメントがあっていいと思うんです。ゴルフの業界だけでなく、宇宙の業界も。そういうのがクロスオーバーすると、今までになかったことができるから」

前澤友作 Yusaku Maezawa
1975年11月22日、千葉県生まれ。早稲田実業高等部時代の93年にインディーズバンドSwitch Styleを結成しドラマーとして参加。渡米後に輸入レコード・CDの通販ビジネスを立ち上げ、98年に有限会社・スタートゥデイを設立(2000年に株式会社化)した。ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」やプライベートブランド「ZOZO」の運営のみならず、宇宙を舞台としたアートプロジェクト「#dearMoon」を発表。若手芸術家、アーティストらを支援する活動も行っている。

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