1オンイーグル奪取 松山英樹はパットと1Wに及第点で欧州へ
パット復調の兆しはあるか 松山英樹の”トレリウム”新パターとセットアップの秘密
もしも、あのパットが入ってくれていたら…。松山英樹のファンはこれまで、何度そう思ってきたことか。グリーン上でのチャンスが多いぶん、パッティングに苦しむ様子が余計に目立ってしまうのは、すべてのショットメーカーの宿命かもしれない。もちろん彼らがそのスタイルに安穏としているわけもなく、松山も試行錯誤を続けている。6月の3連戦では新しいパターを使い、セットアップの方法にも変化を加えた。
これまで、松山が愛用してきたスコッティキャメロンのあらゆるピン型パターには共通点があった。アドレスした際に見えるヘッドの上部(ウッドで言うクラウン部分)に飛球線に沿う直線が引かれていること。松山はアドレス時、このサイトラインを利用してアライメントを正し、ボールの打ち出し方向を整えていた。
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6月の「メモリアルトーナメント」で投入した新しいパターには、そのラインがない。代わりに小さな丸、いわゆる“サイトドット”が中央部にひとつ。敬愛するタイガー・ウッズが愛用するこの手のタイプを使うのは、松山にとっては極めて珍しい。
「小さい頃から線(ライン)があるタイプしか試合では使ったことがないかもしれない。昔、米国でも一回だけ線もなにも入っていないのを使ったことがあったかな…。でもドットを使ったことはないはず」。“線入り”タイプを選んできたのは、ターゲットに対して「ラクに真っすぐ立てる」から。「ドットだと、真っすぐ立てているように見えなかったんですよね。『線がある方が分かりやすいじゃん』みたいな」
変更のきっかけになったのは、ひとりの後輩プロ。昨年の「日本オープン」で優勝した岩崎亜久竜とは一昨年ごろから、帰国時に練習ラウンドをする仲になり、ことしの初めにはフロリダの自宅に招いて一緒に汗を流した。彼が使うパターを手に取って構えてみると、これがどうだ、アドレスで“真っすぐ”を感じられた。
「去年も何回か練習した時に、(岩崎に)打たせてもらって。ことしも春に久々に借りてみたら、やっぱりバランスがめちゃくちゃ良い。ドットなのに構えやすかった。自宅には3本くらいドットのモデルもあるので、(黒宮幹仁)コーチと話して、メモリアルの前に練習で試してみたら、どこからでも入るような気がしたんです。『あれ…、簡単だな』と。インサートの感じも良くて、それでまた急きょ作ってもらいました」
銅合金のインサートを搭載する「トレリウム T22 ニューポート2」のプロトタイプは、サンドブラスト加工を施したスペシャルバージョン。構えてみても、わいてこない違和感。さらに松山は、このドットモデルが自分の“悪いクセ”の解消にも一役買ってくれそうだと踏んでいる。
「僕、『アドレスが長い』ってよく言われるじゃないですか。それってたぶん、構えたときに自分の気持ち悪さを取ろうとしているからなんです。線だと“真っすぐ”に合わせながら余計に『取ろう、取ろう』とし過ぎてしまうけれど、ドットだと『ある程度でいいや』というか、細かいことを気にしなくなるのでイイかなと」
松山にとって突然の“食わず嫌い”解消は、「打ち方も最近は変わっているから」という理由もあると考えている。以前よりも手元の位置が高くなり、バックスイングからフォローまでを振り子のような動きに近づけた。
また、パターそのものの変更を検討していた頃から松山はアドレスの順番も改良した。まずターゲットに対してパターのフェースを合わせてから、身体の向きを整える。以前はそれが“逆”、身体の構えセットしてから、パターのフェースの向きを合わせていた(ちなみに黒宮コーチに言わせると、松山はターゲットに対して真っすぐ立つ能力が極めて高いという)。
「高校生くらいからそのルーティンでやってきた。ボールと身体との距離をあまり変えたくないと思っていたので。身体を全部決めちゃってから、ヘッドを出して、打つみたいな。フェースを決めてから構えるのは、腕や手の感覚が気持ち悪くてイヤだったんですよね。『じゃあ先に身体から決めてしまえばいい』って」
実は2021年の「東京五輪」では同じセットアップ方法を試していた。黒宮コーチのアドバイスから、期せずして再びオリンピックイヤーに構えの順序をスイッチしたことになる。
改善の兆しはあるのか。今季のストローク・ゲインド・パッティングはPGAツアー全体117位の「-0.142」だが、新しいスタイルを取り入れたこの3試合は「メモリアルトーナメント」で全体25位の「+1.186」、「全米オープン」は24位で「+0.75」、「トラベラーズ選手権」は35位で「+0.272」とすべてフィールド平均上位の数字を記録した。
「まあ、僕もいろいろ考えてるんですよ(笑)」。トライ&エラーに終わりはない。(編集部・桂川洋一)