「全米プロゴルフ選手権」リーダーボード
2024年 全米プロゴルフ選手権
期間:05/16〜05/19 場所:バルハラGC(ケンタッキー州)
混乱、飛び交う情報、驚き…スコッティ・シェフラー“狂想曲”の一部始終
◇メジャー第2戦◇全米プロゴルフ選手権 2日目(17日)◇バルハラGC(ケンタッキー州)◇7609yd(パー71)
その“ブレーキングニュース”が耳に入ったのは、試合会場に向かうシャトルバスの中だった。スコッティ・シェフラーに振り回された一日を改めて振り返りたい。
「シェフラー逮捕」の第一報に混乱
通常はホテルから30分前後でバルハラGCに着くが、道が混雑しており一向にたどり着かない。むしろ、コースに近づくにつれてバスは全く動かなくなった。そこに大会側から「重大な事故によりスタートが遅れる」というメールが届く。渋滞の先で赤く光るパトカーのライトが見える状況で、同乗する他のメディアたちから「スコッティ・シェフラーが逮捕されたぞ」という声があちこちから聞こえてきた。シェフラーが逮捕? え、あのシェフラー? なんで?
横にいた記者を問い詰めると、ホラッといって携帯の映像を見せくれた。なんと、シェフラーが手錠をかけられてパトカーに乗せられているではないか。寝起きでバスに飛び乗ったので頭がボーっとしていたが、バケツで水をぶっかけられたぐらい一気に目が覚めた。慌てて日本のデスクに電話をし、「シェフラー逮捕」の速報に備える。その後も携帯で情報を探りつつ、ようやく動き出したバスに揺られてコースに向かった。
次々と飛び交う情報
結局コースに着いたのは、ホテルを出てから1時間後。メディアセンターでは「拘束後すぐに保釈された」とか、「もうコースに来て球を打っている」など、情報が飛び交っていた。「シェフラーはいったいどうなっているんだ。今日はプレーできるのか」と全米プロゴルフ協会(PGAオブ・アメリカ)のスタッフに尋ねても、誰も情報を持っていない。ジリジリと時間だけが過ぎていった。
すると、メディアセンターの大型モニターに『シェフラー拘束→逮捕→保釈』、そして『コースに向かっている』という一報が映し出された。無謀な運転、警察官への暴行などの罪状が出て、逮捕後に保釈されたとテレビのコメンテーターが伝える。いろいろと疑問を抱いたが、いずれにしてもプレーできる方向に進んでいそう。逮捕されたあとに試合に出るなんて…まさに前代未聞だ。
垣間見た世界ランク1位の強心臓
シェフラーはスタートの1時間前にコースに到着し、練習もそこそこにティオフした。出だしの10番ホールはロープ内が見えないほどの人だかり。シェフラーがティショットを放つと、「スコティ!スコティ!」と声援が響き渡る。ニュースを知っているのだろうか。みなシェフラーを応援している印象だった。
10番(パー5)の3打目を1m弱に寄せると、ファンは「あんな事件のあとにこんなショット打てるの?」といった具合にうれしそうに顔を見合わせていた。バーディ、ボギー、バーディ浮き沈みの激しい出だし3ホール。その後もバーディを重ね、終わってみれば「66」の通算9アンダーで暫定4位タイまで浮上した。
いったいこの強心臓はなんなのだろうか。スタート前に拘束なんてされたら、プレーすらままならない選手もいるかもしれない。それでスコアを伸ばしてくるあたり、やはり尋常ではない。「逮捕→メジャー優勝」なんてシナリオになれば、そのうちネットフリックスで流れるんじゃないか。そんなことを思いながら試合後のシェフラーの会見場に向かった。
会見場の雰囲気は
試合後の会見は、離婚報道翌日だったロリー・マキロイ(北アイルランド)の会見よりも人であふれていた。シェフラーは今朝起きたことを、警察官とのやり取り以外は包み隠さず話した。時にうつむいたり、おもむろに机の上の塵をはたいたり、どこか落ち着かない様子。それでも話をすることで、徐々に平静さを取り戻しているようだった。一通りの質問に答えると会見場を後にし、練習場に向かっていった。
練習を見守るギャラリースタンドの中には、逮捕時のシェフラーの画像(オレンジ色の服を着たもの)を胸にプリントしたTシャツを着るギャラリーがいた。今朝の出来事だよね? もうTシャツなんて作ったの? アメリカはホントこういうの早いな。
早朝からの騒動を受け、午後3時11分に松山英樹がスタートするころには、もうひと仕事もふた仕事も終えて疲れ切っていた。でも、取材の本番はここから始まる。はぁ、長い一日だった…。(ケンタッキー州ルイビル/服部謙二郎)