「覚悟が決まったから、勝てた」 松山英樹が振り返る2021年
「背負わされるのも、僕の人生」 松山英樹が見据える2022年
主戦場の米国と日本を行き来するハードルが一気に上がったコロナ禍の世界。10月に母国で2年ぶりに開催された「ZOZOチャンピオンシップ」のファンの熱量は、松山英樹にとって「マスターズ」を制した喜びを改めて実感させてくれるものがあった。
「米国でやってるときも応援はしてもらえるけど、正直、(自分は)外国人。やっぱり日本でZOZOをやったときは、ギャラリーがたくさんいるってうれしいなってすごく思いました。これでこそ、プロゴルファーだなって。2年前のZOZOはタイガー(ウッズ)がいた。僕の組がギャラリーも一番多かったと思うけど、それでも7割8割が僕で、残り2割がタイガーとか違う選手を応援しているんだろうなって。それが今回は“全部、オレだ”って思いながらプレーしてました(笑)」
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最終局面で増した信頼
高まりきったボルテージに、これ以上ない結果で応えてみせた圧勝劇。72ホール目、最終18番(パー5)のイーグルフィニッシュにつなげた5Wでのセカンドショットは、後世に語り継がれるシーンだ。松山自身、2022年の戦いにつながっていく一打でもあった。
「そもそも、5Wを入れ始めたのがマスターズの後だった。なかなか優勝争いもしてなかったですし、最終局面で5Wを使うことがなかった。8月のセントジュード(WGCフェデックス セントジュード招待)もありましたけど、あれは(最終日に14位から大まくりして)ボーナス的な感じだったので、棚ぼたで優勝争いをしているくらいの感覚でしかなかったから。ZOZOも勝負がちょっと決した後ではあったけど、あれを5Wで打てたというのはすごくうれしかった。これで(心の底から)信頼できるクラブになったなって」
PGAツアーのアイコンに
オーガスタで極限の戦いに打ち勝った後も、日本の第一人者として大きな期待は常について回る。「東京五輪」も「ZOZO」もそうであったように、慣れ親しんだ環境に舞台を移しても、松山と並んで世界トップクラスと渡り合える選手はまだ出てきていないのが現状だ。孤高ともいえる道を突き進む胸中には、強烈な自負がある。
「その期待を一身に背負うことこそが僕なんだろうな、みたいな。(期待がしんどい部分と好きな部分と)どっちもありますよ。“勝手に”背負わされているなあと思うときもあるし、しんどいときもあるけど、それが僕の人生だと思っているから。それをこれから先もやっていかなきゃいけない。“いいじゃん、それで”みたいな。」
のしかかってくるばかりの期待に神経をすり減らすときは、もちろんある。それでも、自らの背中を見ているであろう、金谷拓実や中島啓太(日体大)といった若手に同じ思いをさせたくない。その原動力はグリーンジャケットをつかんだときと一貫している。
「いまの女子プロの世界は宮里藍さんがアイコン(象徴)だと思う。これから先、PGAで勝てる子がどれくらい出てくるか分からないけど、その子たちが出てくるまで、僕が上で戦うことでPGAツアーの(日本人選手の)アイコンになることができる。『松山さんが何勝してるから、追いつけるように頑張ります』とか、コメントもしやすくなるじゃないですか(笑)もちろん、比べられる彼らも、彼らなりの苦しさがあると思う。金谷だって、僕の(東北福祉大の)直系の後輩だから、いろいろ言われることもあるはず。それは彼の人生だから、お前が何とかしろよ、と。ただ、“日本人初”みたいなプレッシャーは取り除いてやるぞ、と。僕がもっともっと勝って、もっと楽に、伸び伸び戦えるようにさせてあげたい」
アジア最多勝が持つ意味
「セントリートーナメントofチャンピオンズ」(6日~/ハワイ州カパルアリゾート・プランテーションコース)から始まる22年の戦い。次の1勝が、“K.J. Choi”の愛称で親しまれたチェ・キョンジュ(韓国)が持つPGAツアーのアジア勢最多に並ぶ8勝目でもある。
「Y.E.ヤンさんが2009年に(全米プロで)タイガーに勝って、アジア人として初めてメジャーを勝った。PGAツアー(勝利数)だったら、KJさんがいる。僕がそれを塗り替えることができたら、日本の男子ゴルフ界も変わってくるんじゃないのかなって、すごく思いますよね」
大偉業挑戦の前に悩み?
そして、4月にはマスターズ。「寿司、和牛…考えても考えても、答えが出ない。そりゃあ、悩みます」と笑うチャンピオンズディナーを終えたら、大会連覇に挑むことになる。1934年に始まったゴルフの祭典における長い歴史でもジャック・ニクラス、ニック・ファルド(イングランド)、ウッズの3人しか成し遂げていない大偉業だ。
「3人しかいない中で、初優勝から連覇したのはファルドだけ。そんなの、そうそうできないよ」と苦笑しつつ続けた。「僕はそれが好きでやってきたし、たまに逃げたくなる自分もいるけど、逃げずにやったからこそZOZOも勝てたと思う。2022年も、そうやって期待される。(マスターズ覇者として)しんどいことは増えると思うけど、それを力に変えてやっていけたらなって思います」
日本中の夢を託される宿命を背負い、戦い続ける。(編集部・亀山泰宏)