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アウトオブバウンズな世界紀行

「マディソン郡の見えない風景」Winterset, Iowa

2020/01/19 11:28

町に到着してすぐ早めの夕食に向かったダウンタウン。ふと、不安がよぎったことを覚えている。そのチャイニーズレストラン前に停まっていた車は、リアウィンドウまでびっしりと埃に覆われて、かなりアウトローな雰囲気を出していた。自分が運転するのはピカピカのレンタカー。並べて駐車することに抵抗を感じたのだ。だけど、まさか自分の車も同じようになるなんて、そのときは想像もしていなかった…。

(これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である)

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アイオワ州ウィンターセットは人口5000人ほどの小さな町で、映画「マディソン郡の橋」(1995年)の舞台として有名になった。映画は、屋根付橋(カバードブリッジ)の撮影に来た写真家と、地元の平凡な主婦が出会って恋に落ちるという物語。2人で過ごした時間は4日間だけだったが、一緒に町を出ようという写真家の誘いを、主婦は涙を流して拒絶する。一緒に行くと、残した家族のことばかり考えて、この愛は消えてしまう。それよりも、ここに残って生涯この愛を支えに生きていきたい…という、めっちゃロマンチックなストーリーだ。

ウィンターセットには、いまも6つの屋根付橋が現存している。着いた夜に宿で映画を見返して準備万端。翌朝からさっそく探訪を開始した。

最初に向かったのは、宿からもっとも近いシダーブリッジ。着くと、そこにはすでに先客がいた。橋を丹念に検分している老夫婦と、川に小石を投げている女の子。娘というよりは、孫だろうか。日本から来たというと、その老夫婦は「グレース、一緒に写真を撮りなさい」と、女の子に声を掛けた。橋の上からつまらなそうに石を投げていた少女だったが、目があうとにっこりと微笑んで素直に写真に収まってくれた。

地図を頼りに巡ったが、幹線道路を外れると、道はすぐ砂利に変わった。巨大なトラクターが砂塵を上げて疾走している。バックミラーを見ると、当然自分の車も、もうもうたる砂煙を巻き上げていた。きのうの薄汚れた車を思い出した。そうか、これは日常なのだ。

橋の屋根は当初、風雪から通行人を守るために付けられたのだと思っていた。しかし、調べてみると橋自体の保護に役立っていることがわかった。屋根がなければ20年。だが、屋根付橋は100年以上その姿を保ち続けるという。どの橋の内側にも、訪れた人たちによってメッセージが書き残されていた。「Dreamer’s Journal(夢見人の日記)」というノートがぶら下げられている橋もあった。「永遠の愛」とか、「いつまでも」という言葉が、橋に託されてそこら中にあふれていた。

どの橋も、ただ静かにそこにたたずんでいた。壮麗でも華美でもない。グレースのような子供にとっては、たいして面白みもなかっただろう。「ただ、見にきたんだ」というおじさんや、子ヤギを抱きかかえた2人組のおばさんたちに出会ったが、皆なにか考えごとをしているようで、多くを語る人はいなかった。二度と会えない人や、果たせなかった思い――。それが、まだ行動さえ起こせば叶えられる願いならば、どんなにありがたいことだろう。

最初は「永遠なんて幻想だ」と思っていたけど、6つの橋をめぐるうちに、少しずつその考えは変わっていった。すべてが移りゆく世の中で、いったいなにが“幻想ではない”のだろう。そして、なにが現実なのか。インドにこんな話がある。ある男がひとり洞窟に籠もって真に偉大な思考にたどり着くが、人に伝える前にその場で死んでしまったとする。だけど、その思考はじょじょに洞窟の壁からにじみ出て、いずれ世界に伝わっていく。それだけ思考の力は強いのだと。

離れていても誰かのことを想う気持ちや、好きな人と同じ歌を聞いてつながりを感じること。こういうことも、きっと伝わっていくと思う。「誰もいない。なにもない」と、アイオワの片田舎を表現する人もいるけれど、けっしてそんなことはない。屋根付橋のある風景は、深く心に残って離れなかった。(編集部・今岡涼太)

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