「球がティから落ちた…」序盤失速の真実/笹生優花独占インタビュー(上)
2021年 全米女子オープン
期間:06/03〜06/06 場所:オリンピッククラブ(レイクコース)(カリフォルニア州)
「自分のゴルフを救うためにバーディが必要だった」/笹生優花独占インタビュー
6月6日(日)、笹生優花がオリンピッククラブのクラブハウスを後にしたのは、午後9時を過ぎていた。スピーチやインタビュー、懇談にサインの数々。リモートでのテレビ出演もこなし、翌7日(月)に6時間超のドライブでロサンゼルスへ移動してきた。
多忙の中で我々にもインタビュー時間を作ってくれたことに感謝を伝えると「ぜんぜん大丈夫です」と首を振った。「優勝したのでしっかり答えなくちゃいけないですし、そういうのは自分が答えられる範囲で全部答えて、やっていた感じです。こちらこそ、ありがとうございます」。一瞬、19歳という年齢を忘れそうになってしまうほど、成熟したプロの姿がそこにあった。(編集部・今岡涼太)
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◆14番で空を見て考えた。「今、自分はなにをしたいのだろう?」
前半に1つ伸ばし、後続に5打差をつけてサンデーバックナインに入ったレキシー・トンプソンに、綻びが見えたのは11番だった。ティショットがラフにつかまり、3打目のアプローチもミスして、4オン2パットのダブルボギー。同じホールで笹生もボギーとしていたが、その差は4打に縮まった。
「自分が(トンプソンの)マーカーをやっていたけど、ダボのときに『優花は何打差をつけられているんだろう?』って思いました。自分のスコアもいくつか分からないくらいだったので、何打差かは分からなかったけど、普段あまり考えないことをまた考えてしまっていた。でも、ちょっと頭の中に入ったくらいで(何打差かは)数えなかったです」
「ゴルフの内容がここ3日間と違い過ぎて、自分も今、どれだけオーバーしているんだろう?っていうくらいだったので、軽い気持ちですよね。自分の中では、ダボってもすごい差をつけられているのかなって思っていたんです。やっぱり(トンプソンは)すごいなっていうふうに思っていました」
笹生は、結果にこだわってゴルフすることを拒んでいる。詳しくは後で触れるが、それは、幼少期から結果を求められてきた反動として、自分を守るために編み出した心のコントロール方法とも言えるだろう。
「14番ティで空を見て考えたんです。『今、自分はなにをしたいのだろう?』って。深い考えをしながら空を見るっていうのは、記憶にあるのは2回だけです。1回目は2018年のアジアンゲーム最終日。18番ティで、その時も「今、自分はなにをしたいのだろう」って、まったく同じことを考えました
「気持ちを整理するみたいな感じです。それで、ティショットを打って歩きながら、『今、自分がしたいことは残り5ホールでバーディを獲ることだ。今日の自分のゴルフを救うために、バーディが必要だ』って考えました。残りホールでバーディを獲らないと、“自分を失ったホール”に対してすごく後悔してしまう。必ずバーディを獲りにいくって思いました」
◆ 「終わったー」 のち 「勝ったぞー」
その思い通り、16番、17番と終盤に続くパー5で連続バーディ。トンプソンが17番でボギーをたたいたことで、最終組が18番を迎えたときには、笹生、トンプソン、そして畑岡奈紗が首位に並んでいた。その18番で、トンプソンは2打目をバンカーに入れ、パーが精一杯という状況。一方、笹生は下り4.5mのバーディチャンスにつけていた。
「リーダーボードが見えていたので、入れれば勝てるのは分かっていました。プレーオフだけはしたくないって思いました。これを決めるか、3パットするかのどっちかだと。プレーオフがあまり好きじゃないというか、自分的には1打差でも良いから、勝つか、負けるか。中途半端にプレーオフをするのが嫌なんです。もう72ホールプレーしていたし、練習ラウンドもしていたし、これ以上またコースを歩くのが嫌だったので…」
だが、狙ったところに打てたというバーディパットは、カップ手前で右に流され、1.5mほどオーバーした。
「あのとき(返しのパーパットを)ミスっても、全然悔しいと思っていないと思います。ファーストパットが外れて、半分終わったような気持ちでした」
それでも、返しをカップに沈めて、首位タイでホールアウト。確かにその表情に喜びの色は見られなかった。
「レキシーさんと回ることが本当にありがたいと思っていたので、まずレキシーさんにお礼を言って、メーガ(ガネ)もジュニアの頃からよく知っていたので挨拶をして、スコアリングに行ったけど、よっしゃプレーオフ!じゃなく、プレーオフかぁ…みたいな感じでした。1ホール、1ホール(のサドンデス)だと思っていたら、2ホールやらなくちゃいけないって聞いて、またちょっとショックでした。2ホールで終わらなかったら、次にいかないといけないし…」
プレーオフ3ホール目に3mのバーディパットを沈めて、ようやく長い戦いは終わりを告げた。その瞬間に見せたガッツポーズの意味は、「終わったーってことです。おしまいって感じですね(笑)。勝ったぞーってなったのは、キャディさんとハグをして、インタビューさんが来たときに感じ始めたくらいで、パットを入れたときはあまり感じていなかったです」
憧れの「全米女子オープン」であることに違いはないが、「でも、それは子供のときの夢」と笹生はいう。ゴルフに打ち込んできたこの11年間で、笹生はゴルフをする意味を、結果とは別のものに見出していた。
「試合に勝ちたい気持ちも、世界一になりたい気持ちもすごくあるけど、それよりまず、プロとして生きていかなくちゃいけない。もっと深い意味で、夢だけじゃない話です」
「プロとして予選通過しないといけないし、稼いで次の試合に出ないといけない。そういう気持ちもやっぱり出てきて、最近の自分には勝ちだけにこだわるっていうのはないですね。もっとゴルフを楽しみたいという気持ちが強いので、結果がどうであれ、自分が楽しめれば自分はすごくうれしいです。勝っても負けても、自分が幸せだったらそれでいいんです」
他人の評価に人生を委ねず、自分のことを自分が誰より思いやる。その哲学は、この大舞台でも揺るがなかった。(続く)