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ツアープレーヤーたちの素顔<谷口徹>
先週2日(火)、谷口徹が出身の奈良県宇陀市にある児童養護施設を訪れた。もとは、昨年のちょうど今頃、3月7日に予定されていたものだったが、その直前に本人が交通事故を起こして、延期を余儀なくされていた。寄贈を決めた2008年度の賞金の一部はとうに施設に送金済みだったが、それでは本人の気が済まなかった。ただ寄付するだけでなく、自ら足を運び子供たちの触れ合いを重視してきた谷口は改めて、1年越しの訪問を実現させた。
歴代賞金王の登場を待ちわびた子供たちの歓待ぶりは、半端ではなかった。愛車のベンツが園庭に滑り込むなり、「すげえや、本当に来たぞ!」と大はしゃぎ。自己紹介もそこそこに、足元にまとわりつき、膝の上を陣取り、背中によじのぼる。人なつこさに圧倒されながらも谷口は、終始笑顔を絶やさず、口々に好き勝手なことを話しかけてくる子供たちにも、一人一人真摯に耳を傾けていた。
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その様子を少し遠巻きに見ていた一人の少年が、スタッフに尋ねてきた。「試合中は、あんな顔はしてないんでしょう? 谷口プロは、もっと怖い顔をしているよね?」。ゴルフに興味があるらしく、テレビ中継もよく見てくれているらしい。確かに、トーナメント会場の谷口はどちらかというと、素っ気ない。ゲームが始まるとなおさらで、歓声や声援にもちょこんと頭を下げる程度だ。完全にモードに入っている。「コースではまずプレーに徹する。ゴルフで魅せるのが本物のプロ」とのこだわりが強いから、変なお愛想もしないのだ。
もっとも、ラウンド後はきちんとサインにも応じるし、絶対にファンを邪険にはしない。それでも、照れも手伝ってかめったにニコリともしないので、「怖い人」と誤解を受けることも多いかもしれない。その子も、テレビで見るコースでの印象と目の前のプロに、少なからずギャップを覚えたのだろうと思う。「本当は凄く優しい人なんですね」と、ポツリとつぶやいた。
今回の施設訪問をスタートして5年目(昨年はとんだから実質4年目)になるが、同行するたびに強く感じるのが、谷口の子供たちへの強い愛情だ。毎年、愛車に同乗させてもらって現地に向かうその道中に、いつも言う。「育児放棄とか、虐待とかする親が信じられない。法律とかもっと厳しくしたりして、なんとか再発防止を徹底出来ないものか」と、嘆くのだ。全国には家庭環境に恵まれず、両親と一緒に住むことのできない子どもたちが施設で共同生活をおくっており、その数は4万人にのぼるとも言われている。自身も4歳の子を持つ父親として、その悲しい現実から目を背けることが出来ずに始めた社会貢献活動だったが皮肉にも、実態は年々深刻さを増すばかりだ。園庭に車庫入れしながら、「こないだも、虐待死のニュースがあったでしょう?」と憤りをあらわにさせて、溜息をひとつついて車を降り立ったのだった。
子供たちは正直だ。ときどきぶしつけな質問や、乱暴な言葉遣いをされたり、腰のあたりを小さなゲンコツで叩かれたりもすることもある。それでも谷口はけっして言葉を荒げない。やんわりと、でもしっかりと「そんなことしたらダメでしょう」とたしなめながらも道化に徹して、ジョーク混じりに質問に答えてやったりしている。「抱っこして」とせがまれて「重いなあ!」とわざと顔をしかめながら、でもしっかりと抱きとめる。「この子はきっと、普段寂しい思いをしているはずだから」との思いがあるからだ。一期一会の出会いかもしれないが、それでも今この瞬間だけでも精一杯、子供たちの気持ちを正面から受け止めてやろうと心に決めている。強者が集うコースでは、めったに見せることはない心優しい一面だ。
夕食を終えるなり手を引っ張られ、子供たちが共同生活を送る部屋に招かれた。言われるがまま畳の小さな部屋に腰を下ろして輪になって遊んだ。そのあぐらの上に、さっそく陣取っている子がいる。肩越しに腕を回し、「おっちゃんに貸してみ」と、ゲームのお手本をして見せてやったりしている姿はごく自然で、このなにげない瞬間こそが、何より子供たちの心に強く刻まれていくのでは、と思う。
その2日後、また立て続けに悲劇が起きた。事件現場のひとつは今回、谷口が訪れた施設にもほど近い場所だった。親から受けた虐待で、尊い命の火が消えた。「子供は無条件で可愛い。なのにどうして」というやり場のない谷口の歯ぎしりが、ニュースを通じて聞こえてくるような気がした。