4年目を迎えた「LIV」のいま 韓国での雰囲気は? 日本開催の可能性は? 現地レポートVol.2
◇LIVゴルフリーグ◇コリア 最終日(4日)◇ジャック・ニクラスGC (韓国)◇7354yd(パー72)
4年目を迎えたLIVゴルフリーグ。2月の「リヤド」で始まったことしは全14試合が行われる中に、新規大会がいくつかある。そのうちの一つが今週の韓国、仁川のジャック・ニクラスGCで行われた「LIV・コリア」だ。Vol.2では現地の様子や開催の背景などをお伝えしたい。
■韓国開催のLIVはどんな雰囲気?
世界中で行われているLIVの開催場所の条件はいくつかある。LIVゴルフのCEOスコット・オニール氏によれば、「私たちが開催都市を決める時は、行政の支援があり、世界クラスのゴルフコースがあり、そしてゴルフ市場の大きさと成長の可能性のある場所に注視しています」とのことだ。
今回でいえば、開催コースのジャック・ニクラスGCは2015年に「プレジデンツカップ」が行われたゴルフ場であり、メジャー大会の開催コースとそん色のない難度の高いレイアウトを誇る。また仁川空港から車で約30分とアクセスも良い。韓国のゴルフ熱の高さは言うまでもなく、まさに開催基準を満たしているということだろう。
大会初日(金)は平日ということもあり、そこまで観衆は入っていなかったものの、2日目(土)は雨にも関わらずファンが詰めかけ、最終日はさらに多くの人で溢れかえっていた。会場では音楽がずっと流れ、イベントブースなども多くあり、ゴルフを見なくても一日楽しめる仕掛けがたくさんあった。週末には音楽イベントがあり、今回は『G-DRAGON』など日本でも知られたアーティストが試合後にライブを行う。まるでフェス会場にいるような雰囲気だった。
「我々の調査では、ギャラリーの約3分の1が初めてゴルフイベントに参加するということが分かっています。イベントには音楽、アート、ファッション、グルメなど、様々な要素を盛り込んでいる。LIVゴルフは世界中どこへ行っても、男性、女性、家族連れがいて、デートの人たちも多くいます」とオニール氏は胸を張る。確かに会場では若い人が目立つ。“ついでにゴルフを見る”ような感覚のギャラリーも多いのだろう。
たまたま会場で出会った日本人の観客も、次のように話した。「今までのゴルフ観戦って40代以上人たちが、ゆったり一日かけてゴルフを見るイメージじゃないですか。でも、今の若者はタイパ(タイムパフォーマンス)を重視するから、そんな見方はしないですよね。こういう風に、音楽を聞きながらスピーディにゴルフを楽しむのは、案外ハマる人は多いと思います」。確かにLIVの試合は、ショットガンスタートでもあるし、試合観戦はあっという間に始まって、あっという間に終わる。
選手たちは自分たちが選んだ曲をスタートホールのティショット時に流す。ブライソン・デシャンボーが打つときには『ジャミロクワイ』の曲がかかっていた。“あの選手、こんな曲が好きなんだ”という驚きもどこか楽しい。魅力のある選手がいて、単純にゴルフの試合を見るだけでなく、音楽や食事も楽しめる。スポーツマーケティングのトレンドは「スポーツ+エンターテイメント」であると言われる中で、LIVの考え方はだいぶ時代にマッチしているのかもしれない。けたたましい音楽を聞きながら、そんなことを考えていた(意外と音楽は気にならなくなるから不思議だ)。
■日本開催の障壁は?
「我々はゴルフ界のF1と言える存在です。観戦したことがある人なら、そこに単なるレース以上の何かがあることをご存知でしょう。イベントにお越しいただければ、ブライソン・デシャンボー、ダスティン・ジョンソン、フィル・ミケルソンといった、世界トップクラスのゴルファーたちが勢ぞろいします。経済効果についても触れておきたいと思います。イベント開催に多大な費用を費やす都市では、航空運賃やホテル代など、様々なコストがかかります。私たちが訪れた都市では、10億ドル以上の経済効果がありました」
大会前に行われた韓国メディア向けのスコット氏の話を聞いていると、“サーカス団の興行”を連想した。象やライオンといった魅力ある選手を引き連れ、手品や芸といったイベントでファンを魅了する。そうした一つのパッケージで世界中を興行し、ファンを喜ばせるだけでなく現地にお金も落としているのだ。
とはいえ、スポンサーなくしてサーカス団の興行が成り立たないのも事実。LIVの大会を開くにあたり、数十億円の額がかかるという話も聞く。それだけの額を払えるスポンサーを探さないと、開催は難しいわけだ。試合数が増えない一端もそこにはあるのだろうと推測できる。
今回のLIVコリアでメインスポンサーとなっているのが『COUPANG PLAY(クーパンプレイ)』という動画配信サービスだ。COUPANGとは「韓国のAmazon」ともいわれるショッピングプラットフォーム。2010年に設立されてから急成長を遂げた企業が手掛けており、「Amazon Prime」をイメージしてもらえると分かりやすいだろうか。
LIV初年度から「韓国での開催を夢みている」と話していた韓国生まれのケビン・ナ(米国)やダニー・リー(ニュージーランド)らが積極的に動き、スポンサーとコース探しに尽力したという。試合の中継はCOUPANG PLAYを通して視聴ができ、試合前のドキュメンタリー番組なども同サービスで配信されている。所属チームの『アイアンヘッズ』が中心となった番組には、メンバーである香妻陣一朗ももちろん登場している。
アイアンヘッズのチーム専用のブースが9番グリーン脇にも設置されていて、中ではお酒を飲んだり、くつろぎながら観戦できる。「世界中で興行を行っていますが、各地にはホームチームのような存在がいます。LIVコリアでいえばアイアンヘッズ。先週のメキシコだったらホアキン・ニーマン(チリ)やアブラム・アンセル(メキシコ)がいる『トルクGC』。ルイ・ウーストハイゼン(南アフリカ)のいる『スティンガーGC』もあることから、次は南アフリカで開催するという話も出ています」というのはLIV関係者。
こうなってくると、「日本でも」と思ってしまうもの。世界基準のコース、受け入れ態勢、ファンの熱などを考えると、LIVにとっても魅力あるマーケットに思える。このパッケージをそのまま日本に持っていくことはできそうだし、なぜ開催に至らないのか。
もちろん、日本開催の話も出ていないわけではない。ただし障壁が多いのは事実。まずはスポンサーを探さなければならないし、LIVとPGAツアーとの話し合いが平行線をたどっていることも要因になっていると聞く。今後、日本人チームなどができれば、LIV側も日本開催に乗り気になってくるのだろうが…。
いずれにしても、「スポーツ+エンターテイメント」としてゴルフの可能性を広げるLIVのフォーマットは、日本でもハマる気がしてならない。「LIV JAPN」あるいは「LIV TOKYO」などを見てみたいと思うのは、私だけではないだろう。ゴルフとあまり縁のない若者がゴルフ場にやってくる。そんな姿を想像するだけでもワクワクする。(韓国・仁川/服部謙二郎)