世界トップクラスの資質 藤本佳則の“慎重さ”【佐藤信人の視点】
“ヒール役”の新王者 リードの嫌われる勇気
新たなマスターズ王者パトリック・リードは、明らかにヒール役(悪役)として表彰台に立っていました。
それは自国の人気選手ジョーダン・スピースやリッキー・ファウラーに勝たせたいというパトロンの声が勝っていたわけではありません。他国のロリー・マキロイ(北アイルランド)への声援のほうが、リードへの応援より上回るという逆転現象が起こるほど明白でした。
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もともと彼は、地元のオーガスタ州立大に入学する前、ジョージア大に所属していました。彼が1年で転校した理由は、練習ラウンドでスコアを改ざん、チームメイトからの窃盗容疑などネガティブなものばかり。そしていまだに、この疑惑を完全否定していることも、嫌われてしまう現状を作っている理由となっています。
通算3勝目を挙げた2014年「WGCキャデラック選手権」直後の会見では、「俺は世界で5本の指に入る選手」と豪語して批判を浴びました。また、タイガー・ウッズと同じ赤いポロシャツと黒のパンツを最終日の勝負服にしていることも、一部のファンから中傷されています。パトロンやメディアにも嫌悪感を露わにし、事件を起こすことも度々。妻子はいるものの両親、妹とは不仲で絶縁状態で、両親に孫(リードの子ども)の顔を一度も見せたことがないという話も聞きます。試合後、家族と抱きあう光景が奥さん一人だけだったいうことからも、その関係性は窺い知れます。
そのような彼ですが、周りの声を払しょくするほど、実力は折り紙付き。大学時代にはチームを全米チャンピオンに導く活躍を見せ、2016年の「ライダーカップ」ではアメリカ代表チームの勝利に大きく貢献しました。ツアー通算6勝、マスターズ制覇、世界ランク11位までのぼり詰めたリード。フレンドリーな態度は取らないにせよ、誰もが認める成績を残してきました。
ヒール役を貫き通した男が頂点に立った理由――それは名声よりも、実力。結果がすべての世界で、プレッシャーを感じることなく実力を発揮できた“孤独”の強さに尽きるのかも知れません。
米国の報道では、テレビ観戦をした彼の父が「(息子は)周りに敵が多ければ多いほど良い結果を残す。今回もそうなった」と発言したと聞きました。誰より息子のことを知る父親だからこそ、信憑性の高い分析ができたのだと思われます。今後彼がどのように変わり、どのように成長していくのか。米国のみならず、全世界のゴルフファンがヒール役の新王者に注目していくことでしょう。(解説・佐藤信人)
- 佐藤信人(さとう のぶひと)
- 1970年生まれ。ツアー通算9勝。千葉・薬園台高校卒業後、米国に渡り、陸軍士官学校を経てネバダ州立大学へ。93年に帰国してプロテストに一発合格。97年の「JCBクラシック仙台」で初優勝した。勝負強いパッティングを武器に2000年、02年と賞金王を争い、04年には欧州ツアーにも挑戦したが、その後はパッティングイップスに苦しんだ。11年の「日本オープン」では見事なカムバックで単独3位。近年はゴルフネットワークをはじめ、ゴルフ中継の解説者として活躍し、リオ五輪でも解説を務めた。16年から日本ゴルフツアー機構理事としてトーナメントセッティングにも携わる。