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佐藤信人の視点 勝者と敗者

いまこそ考えるスロープレー問題

「ワールドレディスサロンパスカップ」は白熱した優勝争いで多くのギャラリーを魅了しました。その中で物議を醸しているのが、最終日最終組の申ジエ選手(韓国)、鈴木愛選手、イ・ジョンウン6選手(韓国)が受けたスロープレーでの警告についてです。

今季から国内女子ツアーでは、1ストローク40秒以内(最初にストロークする選手は50秒以内)という規定<※> を設け、スロープレーに対してより厳格に臨む意向を示していました。世界的に見ても、欧州ツアーで6月に開催される新規大会「ショット・クロックマスターズ」で、同様の時間制限が発表されています。また、来年施行される改正ルールでは、プロだけでなく一般ゴルファーにとっても、ファストプレー推進の流れを身近に感じる事項が並んでいます。

では、そもそもスロープレーはなぜ罰則に値する行為なのでしょうか? 同伴者や後続組といった同じプレーヤーに対しての影響を指摘するケースが多いですが、私はもう少し大きな枠組みでのマイナス影響を懸念しています。

最終組がホールアウトしたのは1つ前の組がホールアウトしてから、30分近く経過した後と聞きました。この空白の時間を、人気スポーツの野球やサッカーに置き換えると、事件や事故による異例な中断と同等にとらえられてもおかしくありません。そのような30分間の空きがもっとも見せ場となるシーンで起こることは、せっかく入場料を払って来場した観客にとって、途中退席や再び観戦にくる意欲を削いでしまうことにつながってしまうと推測できます。

また、ある程度の編集でカバーできる部分はありますが、テレビ中継を見ているファンにとっても影響は少なくないと考えています。それは人気回復の一手として、生中継での醍醐味が重要だと考えているからです。なるべくリアルな時間で選手のプレーを堪能する。生放送で選手を身近に感じることで、より白熱して応援できる。全選手がファストプレーを意識すれば、地上波でもすべての試合で実現できなくはないと思っています。

ちなみに私が現役時代、先輩はプレーの速い選手が多かったと記憶しています。国内男子ツアーで見ると、実はスロープレーで2度警告を受けてペナルティを科された選手は1人だけ(警告回数とペナルティ内容は女子と同じ)です。2000年「つるやオープン」でリチャード・バックウェル選手(オーストラリア)が、15番ホールで2回目の警告で1罰打を科されました(1999年の日本ゴルフツアー機構発足以降)。

ただ、その後も記録には残っていませんが、プレーの遅さに関する問題提起は何度もされてきました。特にプリショットルーティン(ショット前に行う一連の決まり動作)が重要視され、自分の間合いで打つことの大切さが大きく叫ばれたここ10数年の間で、若い選手やジュニア選手に多かった印象を受けています。

私にとっての憧れの先輩たちがそうであったように、これからプロを目指す、またゴルフを始めたいというジュニアにとって、プロは見本となる存在であるべきです。そのように考えると、プレーにかける時間を必要以上に取ることは好ましいとは言えません。

ファンあってのプロスポーツ。ファンはプレーだけではなく、プレースタイルも見ています。現役の選手たちには、子供たちの手本となる姿を見せてもらいたいと望んでいます。また、それがゴルフ人気の底上げにつながると信じています。(解説・佐藤信人

【プレーのペース(規則6-7注2)】 ※一部抜粋
各ストロークに許容される時間は40秒以内とするが、最初にストロークする選手に対しては50秒以内とする。この時間を超えたときにバッドタイムとなる。初回の違反は警告、2回目は1罰打、3回目は2罰打、4回目で競技失格となる。

佐藤信人(さとう のぶひと)
1970年生まれ。ツアー通算9勝。千葉・薬園台高校卒業後、米国に渡り、陸軍士官学校を経てネバダ州立大学へ。93年に帰国してプロテストに一発合格。97年の「JCBクラシック仙台」で初優勝した。勝負強いパッティングを武器に2000年、02年と賞金王を争い、04年には欧州ツアーにも挑戦したが、その後はパッティングイップスに苦しんだ。11年の「日本オープン」では見事なカムバックで単独3位。近年はゴルフネットワークをはじめ、ゴルフ中継の解説者として活躍し、リオ五輪でも解説を務めた。16年から日本ゴルフツアー機構理事としてトーナメントセッティングにも携わる。

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