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佐藤信人の視点 勝者と敗者

稲森佑貴が父から教わった3秒の習慣

稲森佑貴選手が、念願の初優勝を「日本オープン」というビッグタイトルで飾りました。

稲森選手と言えば、2015年から3年連続フェアウェイキープ率は1位、今季もここまで2位に大差をつけての1位と、ボールが曲がらないことで有名な選手です。今大会でも最終日にフェアウェイキープ率100%と圧倒的なスタッツで勝利をもぎとりました。

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彼の強さを測る項目は、実はフェアウェイキープ率だけではありません。それは今季も現時点(10月16日時点)で2位のパーオン率 83.33%です。過去の成績でも、直近の3年間はベスト10に入っています。これはフェアウェイウッドやロングアイアンといった長いクラブでも、しっかりグリーンをとらえている証拠。ずば抜けた正確性は、ティショットだけでなくセカンドやサードショットでも誇っていることが分かります。

3日目のラウンドが終わってから、ドライビングレンジでお父さんの兼隆さんに話しかけたところ、「佑貴、調子いいですよ」と教えてくれました。いつも息子には厳しい声をかけるお父さんが、めずらしいなと思ったのですが、それほど彼のショットがキレていたことを意味していたのだと思います。その調子の良さがあったからこそ、最終日最終組で初優勝がかかった選手が陥るプレッシャーに打ち勝てたのだと思いました。

私が稲森親子にはじめてインタビューをしたのは、彼がまだ10代でチャレンジトーナメント(現AbemaTV ツアー)を主戦場にしていた頃でした。ツアーを転戦する息子に同行するべく、兼隆さんは改造したマイカーにベッドとキッチンを完備し、宿泊費を節約するために車の中で寝泊まりできる体制を整えました。

公園の駐車場に車を停め、一緒に車内で寝て過ごしていた父子。兼隆さんが「こんな生活は(親の役目が終わる)成人まで、20歳になるまでですよ」と話していましたが、それを一緒に聞いていた稲森選手が、とても悲しそうにしていたのをいまでも思い出します。

家族の関係性が希薄化した現在では、あまり見られなくなった“父子鷹”。熱血な父と子の夢を追うストーリーに驚かされた反面、うらやましくも感じました。父の熱心なサポートと熱心な教えが、彼のいまの基盤となっていることは確かだと思います。

稲森選手が幼少期の頃から、兼隆さんが言い続けていることがあります。それはフィニッシュで「3秒止まれ」です。どんなミスショットをしても、フィニッシュをしっかり取ること。フィニッシュをかためることで、スイングは大きく崩れないという教えです。

基本中の基本ではありますが、ツアープロでも毎ショット、フィニッシュをしっかり決めることは至難の業です。この教えが稲森選手の体に染みつき、いまもなお習慣として残っていることで、プレッシャーのかかった場面でも、曲がらない球を打ち続けられるのだと思います。

ゴルフの攻め方に正解はありません。フェードやドローなど、さまざまな種類の球を駆使することも一つですが、ストレートボールを追い求め続けることも一つ。一つのことを突き詰めれば強いゴルファーになれる――このことを改めて稲森親子から教えてもらいました。(解説・佐藤信人

佐藤信人(さとう のぶひと)
1970年生まれ。ツアー通算9勝。千葉・薬園台高校卒業後、米国に渡り、陸軍士官学校を経てネバダ州立大学へ。93年に帰国してプロテストに一発合格。97年の「JCBクラシック仙台」で初優勝した。勝負強いパッティングを武器に2000年、02年と賞金王を争い、04年には欧州ツアーにも挑戦したが、その後はパッティングイップスに苦しんだ。11年の「日本オープン」では見事なカムバックで単独3位。近年はゴルフネットワークをはじめ、ゴルフ中継の解説者として活躍し、リオ五輪でも解説を務めた。16年から日本ゴルフツアー機構理事としてトーナメントセッティングにも携わる。

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