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佐藤信人の視点 勝者と敗者

また逆転劇を演出…男子プロが恐れる“魔の16番”の正体

◇国内男子◇トップ杯東海クラシック 最終日(1日)◇三好カントリー倶楽部 西コース(愛知)◇7325yd(パー72)

「三好の16番(パー3)には気をつけろ」。百戦錬磨のツアープロでも必ず警戒する“魔のホール”、それが三好カントリー倶楽部 西コースの16番です。

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“魔のホール”と呼ばれる理由は、グリーン左に位置する急な傾斜の崖にあります。ここに打ち込んでしまうと、最下段まで転がり落ち、下は深いラフ、上は木がスタイミーとなり、一打でグリーン上まで這い上がることは至難の業となってしまうからです。

「トップ杯東海クラシック」最終日は、このホールを舞台に波乱の展開が待っていました。2位に2打差をつけてトップに立っていたキム・ヒョンソン選手(韓国)がまさかのトリプルボギーを叩き、トップ争いから脱落してしまったのです。

ショットの安定感に定評のあるヒョンソン選手が、なぜあの場面で絶対に避けなければいけない崖の方向へ打ってしまったのか? 結果論とはなってしまいますが、推測すると2つの要因が考えられます。

まずひとつは、2打のリードがセーフティリードではなかったという点です。2015年に同大会で優勝しているヒョンソン選手ですが、12年大会でリュー・ヒョヌ選手(韓国)と優勝争いを繰り広げて敗れた経験を持っています。

苦手意識とまではいきませんが、良いイメージを持っていたとは言えません。また、16番の後の2ホールとも同じような難ホールが続くため、ここはボギーであがれれば良しといった考えには至っていなかったと思われます。

そしてもうひとつ、メンタルの問題になってきますが、絶対に打ってはいけないという意識が邪魔をしたのだと考えられます。

この日の前日、大会3日目にスンス・ハン選手(米国)が、このホールで大会ワースト記録を2打塗り替える「11」を叩いてしまったことで話題となったばかりでした。

プロにとってプレッシャーのない状況では、グリーン右サイドや真ん中に落とすことはそれほど難しいことではありません。ですが、優勝争いをしている最中に、注意しなければいけない場所を意識しないということは、簡単なようで非常に難しいことなのです。

試合後のコメントで「『左はダメ』と頭に残っていることがダメですね」と残した通り、「意識してはいけない」と、考えることさえもミスにつながる、非常にタフな感覚が求められる状況でした。

ヒョンソン選手にとって悔やまれる一打。あのティショットを紐解くと、上がりの難関3ホールを前にした心理状態とメンタルの強さが求められる状況、この2つの要素が引き起こしたミスショットだったと考えられます。

絶対に左へ打ってはいけない、それでも左へ打ってしまう“魔のホール”の呪縛。選手の立場で考えると、なんとも嫌な気分になるホールですが、観ている側としては非常にスリリングな優勝争いを演出してくれる舞台だと改めて感じました。(解説・佐藤信人

佐藤信人(さとう のぶひと)
1970年生まれ。ツアー通算9勝。千葉・薬園台高校卒業後、米国に渡り、陸軍士官学校を経てネバダ州立大学へ。93年に帰国してプロテストに一発合格。97年の「JCBクラシック仙台」で初優勝した。勝負強いパッティングを武器に2000年、02年と賞金王を争い、04年には欧州ツアーにも挑戦したが、その後はパッティングイップスに苦しんだ。11年の「日本オープン」では見事なカムバックで単独3位。近年はゴルフネットワークをはじめ、ゴルフ中継の解説者として活躍し、リオ五輪でも解説を務めた。16年から日本ゴルフツアー機構理事としてトーナメントセッティングにも携わる。

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