HOT LIST JAPAN受賞クラブ 開発者インタビュー Vol.6(ヤマハ編)
「HOT LIST 日本版」で高評価を得たクラブは、どのように開発されたものなのか。開発や企画担当者へのインタビューから、メーカー側の視点を探っていく。今回は、ギア好きのゴルファーからの高い評価を得て、近年躍進を続けているヤマハ。インプレスXの開発担当者2人に話を訊いた。
【2012 HOT LIST JAPAN 受賞クラブ】
ドライバー部門:ゴールド賞(インプレスX V202)
ドライバー部門:シルバー賞(インプレスX D202)
アイアン部門:シルバー賞(インプレスX Vフォージド)
アイアン部門:シルバー賞(インプレスX Dフォージド)
【担当者 プロフィール】
竹園 拓也(たけぞの たくや)
ヤマハ株式会社 ゴルフHS事業部 商品開発部 商品開発グループ。ウッドの開発を担当。
柴 健一郎(しば けんいちろう)
ヤマハ株式会社 ゴルフHS事業部 商品開発部 商品開発グループ。アイアンの開発を担当。
変えない良さと、着実な進化
GDO:インプレスXは、VシリーズとDシリーズの両方がドライバー部門とアイアン部門でメダルを獲得しました。まずは上級者向けのVシリーズについて、最新モデル開発の経緯をお伺いできますでしょうか。
竹園:「V202 ドライバー」は、上級者ゴルファーが長尺シャフトで飛距離を伸ばせるように開発したモデルです。上級者はシャフトを長くしてもそれほどミート率が落ちないので、長尺によってヘッドスピードをアップさせれば、飛距離を伸ばせる可能性がとても高いのです。前モデルは46インチで312グラムでしたが、少しハードすぎるいうユーザーの声もあったので、今回は主にシャフトを軽量化することで308グラムに仕上げています。ヘッド形状は従来どおり、インプレスらしい上級者好みの叩いていけそうな形状を採用しています。
GDO:Vシリーズのアイアン「Vフォージド」は、やさしい軟鉄鍛造アイアンとして以前から人気のモデルですね。
柴:初代モデルが登場したのは2008年ですが、当初から軟鉄鍛造ならではの見た目のシャープさと打感の良さを維持しながら、できるだけやさしいモデルを作ろうというのが開発のコンセプトでした。以来、その設計思想は変わっていません。プロも使用するモデルなので、新モデルの開発時には毎回「もう少しヘッドを小さくしようか」といった議論もあるのですが、やさしいアイアンであることを維持するために、あえてそこは踏みとどまっています。
GDO:Vシリーズにはヘッドが小ぶりのツアーモデルもあって、こちらは限定発売で藤田寛之プロ使用モデル。対して「V フォージド」は谷口徹プロの使用モデルということになっています。実際、谷口プロは「V フォージド」を使用しているのでしょうか?
柴:はい。ロフトはプロ用に少し調整していますが、市販品とまったく同じものを使用していただいています。谷口プロと契約した当初は複数のプロトタイプを用意していましたが、結局、谷口プロが選んだのは市販モデルだったんです。プロの好みは毎年変わるわけではありませんから、「V フォージド」の新モデルを開発する際には、現状から変えすぎないようにも配慮しています。
GDO:アベレージ向けのDシリーズに関しては、最新モデルにはどういった特徴があるのでしょうか?
竹園:ドライバーは両シリーズともに、フェースの偏肉パターンを進化させて、より反発エリアを広げて飛ばせるように工夫していますが、新モデルの「D202ドライバー」では、それに加えてシャフトの設計にもこだわりました。シャフトの先端から約18cmのところにタングステンシートを埋め込み、ヘッドの当たり負けを防いでボール初速を上げようという開発意図です。ヘッドだけでなく、クラブとしてのトータルポテンシャルを上げたモデルと言えます。
柴: Dシリーズのアイアンは、今回から軟鉄鍛造になったのが大きな特徴です。2006年に発売された「445 D」というアイアンが軟鉄鍛造だったのですが、鋳造のほうが設計の自由度が高いため、性能を優先してDシリーズは2代のモデルにわたって鋳造を採用していました。しかし、この4年間で製造技術も進化しているので、どこまで軟鉄鍛造でやれるか、もう一度チャレンジしてみようと開発したのが今回の「D201 フォージド アイアン」です。モノ作りの現場の技術進化のおかげで開発できたモデルですね。
GDO:「HOT LIST」のテスターコメントでは、インプレスXのヘッド形状や打感を高く評価する声が多く聞きました。どんなこだわりや開発の苦労があるのでしょうか。
竹園:飛距離などの性能はもちろんですが、ゴルファーが手にして打ったときの感性も大切だと考えています。打感については、音響メーカーであるメリットを活かして無響室で音を解析したり、インパクトの打感というのは衝撃の音でもあるので、打楽器を開発している他部門と意見交換をしたり、音についてはかなり深く掘り下げています。
柴:現在の技術をもってすれば、PCのCADでクラブを設計する段階で周波数を解析して、どんな打音になるのかある程度は分かります。ですが、実際にヘッドを作ってからのヒューマンテストも欠かせない工程です。
竹園:いくつかのサンプルヘッドを用意してブラインドで打音のテストをするのですが、音というのは打った本人と周りの人でも聞こえ方が変わるし、天候や気温などの状況によっても変わります。音というのはとてもデリケートです。新モデルの開発時には、必ず人間の耳で入念に検討し、修正するような作業を重ねています。とても地味な作業になるのですが(笑)
GDO:ヘッド形状についても、特別なこだわりがあるのでしょうか?
竹園:ヘッド形状も打感と同じで、CADで設計してできたものを実際にカタチにして手に取ると、必ず納得のいかない部分がでてきます。モックアップを作ってからマスターモデルを完成させるまでには、かなりの時間を要していますね。私が開発を担当する前から、インプレスXシリーズはヘッド形状の良さが評価されていたブランドです。私もそれを守っていかなければいけないですが、従来モデルよりも進化させた、より良いものを作っていかなければいけません。そのプレッシャーは常に感じています。