6番ホールでパーをセーブし歓声に応えたT.ウッズ

会場の、そしてテレビの前の誰もが、リーダーボードに映るスコアカードと、残りホールの数とを見比べていた。「WGCブリヂストンインビテーショナル」2日目の午後。周囲の期待はタイガー・ウッズの“マジックナンバー・59”達成の一点に集中していた。

開始から3ホールをバーディ、イーグル、バーディで滑り出したタイガー。しかし4番から3ホールは1パットパーを並べる我慢が続いた。特に6番ではティショットが大きく左へ。木の根付近に付き、セカンドは真横よりも後ろに出すことを余儀なくされた。それでも5メートルのパットを沈めてセーブ。

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「バーディパットよりも、パーパットを決める方が重要だと思っている。美しいスコアカードを作るためには、スコアを落とさないことの方がカギとなるからね。バーディよりもキーとなるパーを拾う方が、より興奮する。それが勢いを作るんだ」。そして続く7番（パー3）で第1打をピンそば1メートルに付けてしまうのだから、役者が違う。

タイガー自身、この日のベストショットに選んだのは後半10番のウェッジでのセカンドショット。絶妙なスピンコントロールでピンそば2メートル以内に絡め、11番もバーディ。さらに12番、13番では5メートル前後のパットを沈めて4連続。周囲はざわつき、慌ただしくなる。PGAツアーはタイガーの歴代記録、「59」のデータを引っ張り出し、中継局は生放送中の画面に「TIGER 59 WATCH」のスーパーを出した。

結局、終盤に勢いはそがれ、15番、17番では2メートルのバーディチャンスを逃して偉業達成はならなかった。1イーグル、7バーディで自己ベストに並ぶ「61」でフィニッシュ。それでも最終18番では締めくくりのスーパープレー。第1打を大きく曲げると、第2打、3打はいずれも右の林の向こうから。しかし奥のカラーからパターで見事なパーセーブを決めると、右手の人差し指を天に掲げ、大観衆をその場に立ち上がらせた。

だがタイガーにとっては、このラウンドもこれまでの一部に過ぎない。「キャリアでトップ10のラウンドに入るか？」という問いにも「それは分からないな。トップ20には入るだろうけど」とサラリと話した。「59といけばもちろん良かった。チャンスはあったしね」。

あと2ストロークが及ばず59達成はならなかったT.ウッズ。同組の松山英樹は歴史の証人になりかけた。

そしてこの時間を共有していたのが松山英樹である。プレーを終え、驚嘆の言葉を並べた。

「笑いしか出ない。最後、入りますかね、あれ・・・」、「途中まではスゴいなあって思って見てたんですけど、なんか『この人、どうしようもないな』って思ってしまった」、「13番を終わった時点で『57』もあるんじゃないかと思った」、「パッティングもすごい、アイアンも全部スゴイ。どれがスゴイって言えない」。

憧れ、尊敬を超えたところにあったのは、もはや呆れかえってしまうような強さ。「次元が違い過ぎて。小学生がプロとやっているみたいだった」。

この日は序盤から勢いづく王者を追う大ギャラリーの一部が、タイガーがショットを終えると、松山のプレーを待たずに歩き出した。しかし松山は「仕方がない。ナンバーワンの人と回るんだから。それをいちいち気にしていられない」と潔かった。

時代の最高の選手と初めてプレーした2日間。その中でこれほどのプレーを目に焼き付けられたのは、幸運でもある。なにせ2サムのラウンド、この日のタイガー・ウッズのスーパーラウンドを最も近いところで体感したのは、松山英樹以外いないのだ。「（ウッズと優勝を争うのは）今のままでは絶対に無理。現実との差をどう埋めていくか」。王者がくれた極上のプレゼントを胸に、21歳はすぐに練習場へと向かっていった。（オハイオ州アクロン／桂川洋一）