渋野日向子2月にタイで始動「全てボロボロ。イチからやらないと」
「勝たなきゃ意味がない」の真意 渋野日向子は“後悔”を糧に
いつだって素直な渋野日向子の口から、いつにも増して切実な思いがこぼれた。1年目の米ツアー最終戦「CMEグループ ツアー選手権」開幕前日の11月16日。序盤で続いた優勝争い、苦しい試合が増えた中盤以降も含めて戦い抜いてきたシーズンを総括したときのことだった。
「ホントにいろいろな経験はできたけど、でも、まあ、勝たなきゃ意味がない。まだそこまでね、思いが強くなかったのが…。そこに対して、あんまり強い思いでやっていなかった。ちょっと最近、それを後悔しています」
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決して、はなから優勝を度外視して戦っていたというわけではない。「自分自身が一番、自分を信じていなかったから。勝てるとも思っていなかったし…」。考え込む時間が増えた中盤から終盤にかけてのハイライトとなった8月「AIG女子オープン(全英女子)」についても、「確かに(勝てなくて)悔しかったですけど、いろいろ考えたら『なんであのとき3位になれたんだろう?』だし…」。前後の試合で納得のいかないプレーに終始したことで、メジャーでの1打差3位フィニッシュに胸を張るどころか、首をひねってしまう自分がいたという。
6月、「マイヤーLPGAクラシック」を控えたタイミングで優勝に対する意識の変化を尋ねたことがあった。すでに第一目標だった翌シーズンのシードは手中に収め、本来なら上だけを見て戦うことができる状況。渋野が強調したのは足元を見つめ直すことだった。
「確かに余裕ができた分、もっとゴルフ力を高めたいというよりは、この何試合か、一日一日をすごく無駄にしてしまったかなっていうようなゴルフの内容だったりした。先週(ショップライトクラシック)からまたちょっと意識を変えて、目の前の結果も大事なんですけど、しっかり一打一打に向き合いたい」
当時のプレーは、ここ2年ほど合言葉になっている「コースマネジメントの徹底」以上に張り詰めたものを感じた。それこそ、ひとつのミスから一気に自分を許せなくなってしまうような。シーズンを通した中でも状態を落としていた時期であり、「全米女子オープン」でタフなコースに跳ね返された直後だったことも影響していたかもしれない。
4位に入った4月のメジャー「シェブロン選手権」で自らの変化について聞かれ、「これだけ振れるようになって、マネジメントもバカなりに何とかやって、パッティングもそれなり上手…。上手というか距離感を合わせられるようになって、ラフからも腕力で出すし…」と笑っていた姿とは対照的に映った。
中盤にかみ合わなくなった歯車。上を見据えるよりも後ろを振り返ることが増えた。内容と結果が高い次元で一致していた序盤の輝きが鮮烈な分、終盤は上位に入ってもネガティブなポイントに目が向きがちになっていた感もある。
これまでも悔しさを糧に成長してきたのが渋野でもある。今年は4日間のうち3日間で60台をそろえた「シェブロン選手権」を例にとっても、初出場した2020年に「ここでは戦えないと思った」というほど打ちのめされた舞台で出した好成績だ。
勝利へのアプローチに揺らぎがあったことを明かした最終戦の開幕前日、こんな話もしていた。最も悩ましかった6、7月と比べながら、「そのときよりは、ゴルフが好きな気がする」。新たな舞台に挑んだ一年の一瞬一瞬が、今後のキャリアへとつながっていく。(編集部・亀山泰宏)
亀山泰宏(かめやまやすひろ) プロフィール
1987年、静岡県生まれ。スポーツ新聞社を経て2019年にGDO入社。高校時代にチームが甲子園に出場したときはメンバー外で記録員。当時、相手投手の攻略法を選手に授けたという身に覚えのないエピソードで取材を受け、記事になったことがある。