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イップスのトンネルを抜けて-藤田幸希が目指す笑顔のゴール

「ようやく自分の中でこれかな? こんな感じかな? という手応えを見つけました」――。

必死に取り戻そうと手探りを続けた月日に思いをはせ、藤田幸希は会見中に思わず声を震わせた。いろいろあった2年間。パターイップスの長いトンネルから抜け出し、真っ赤な涙目でようやく安堵の表情を見せた。

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宮崎県のUMKカントリークラブで開催されている「アクサレディス in MIYAZAKI」の2日目、1打差2位から出た藤田は5バーディ、ノーボギーの「67」をマークし逆転に成功。2打差の単独首位に立ち、2011年10月の「富士通レディース」以来3シーズンぶりとなるツアー通算6勝目へ、一歩前進した。

朝から会場に降り注いだ冷たい雨など露ともしない。この日の藤田は5番で7メートルのロングパットを沈めて幸先よくバーディ発進すると、7番、8番の連続バーディで首位に並び、後半は3メートル前後のパットを確実に沈めて一気に並走状態から抜け出した。

「今はグリーンに立つのが楽しい。やっと入ってくれるイメージが出せるようになったので。それにミスの原因がはっきりと分かるようになりましたね」

この日、小気味良いリズムを生み出し、ためらいのないプレーを支えたのは、チャンスを逃さないパッティングだった。2012年シーズンから不調を度々口にするようになり、「ロングパットは思い切って打てているけど、短いパットが打てない、ある意味イップスですね」と、この日の会見とは別の意味の涙を会場で流し、幾度も唇を噛んできた昨シーズンまでの大荷物だ。

つかんだと思えば、指の間をすり抜け、繰り返した試行錯誤は数えきれない。同じ経験をした先輩選手らに教えを乞い、原因はやはりメンタル面にあると確信したという。本人の自己分析によると、“普段からマイナス思考で、思ったことは変えることが出来ない頑固者”という藤田だが、少しずつ自身のゴルフ観を変えてきた。

たどり着いたのは「それならそのマイナス思考のまま受け入れてしまえばいい」との境地。第三者には禅問答のようにも聞こえる、ぎりぎりの“プラス思考”を保てるようになった今、パッティングに輝きを取り戻し始めた。

藤田は最後に優勝した「富士通レディース」の1ヶ月後、2011年11月に一般男性と入籍している。「僕が見に行った時に優勝しても、記念写真には一緒に収まらないよ。帰ってくるのを待っているから」。時を同じくして優勝から遠のいた2年の間には、プレーの励みになり、癒しにもなる優しい言葉さえ、時として重みを変えたに違いない。この日の会見で流した涙には、そんな時にも変わらず寄り添ってくれた家族への感謝が含まれていたことは想像にかたくない。

「見守ってくれている人がいるので頑張りたい」と藤田は最終日へ意気込んだ。その言葉に、家族と喜びを分かち合う風景が思い浮かぶ。取材する立場で、プロが打つ1打の重みを実感する瞬間だった。(宮崎県宮崎市/糸井順子)

糸井順子(いといじゅんこ) プロフィール

某自動車メーカーに勤務後、GDOに入社。ニュースグループで約7年間、全国を飛びまわったのち、現在は社内で月金OLを謳歌中。趣味は茶道、華道、料理、ヨガ。特技は巻き髪。チャームポイントは片えくぼ。今年のモットーは、『おしとやかに、丁寧に』。

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