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もし女子プロが男子ツアーを切り撮ったら?フォトグラファー阿部未悠の撮影記/前編

◇国内男子◇ゴルフ日本シリーズJTカップ 初日(11月30日)◇東京よみうりCC(東京)◇7023yd(パー70)

「人間撮るの2回目なんです。1回目の人間は吉田優利でした」と、日本シリーズJTカップのプレスルームでおどけるのは、女子プロの阿部未悠。今季、メルセデスランキング37位という堂々のシード選手だが、初出場だった前週の最終戦「リコーカップ」の興奮冷めやらぬまま、東京よみうりCCに乗り込んできた。

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男子ツアーの観戦?いやいや、今週は男子プロを切り撮るため、お仕事の発注を受けたフリーフォトグラファーなのだ。クラブを一脚に持ち替え、重い機材を担いでコースのアップダウンを闊歩する。なぜ阿部未悠が撮影を?そしてどんな写真を撮るの?その一日(日本シリーズ初日)を写真と共に振り返った(前編)。

なぜ阿部未悠が写真を?

そもそも疑問を抱く方も多いと思うので、なぜ阿部未悠が写真を撮るようになったのか、そのカメラ遍歴をおさらいしておこう。

元々、父親がカメラ好きで家にはゴルフクラブと同じようにカメラ(キヤノン)が転がっていたという阿部家。阿部も自然と写真を撮るのが好きになり、「カメラ欲しいな」と漠然と思うようになっていたという。19歳の誕生日(2019年)のプレゼントがキヤノンの一眼レフ(ズームキット)で、それまでの“iPhone撮り”から一気に撮影の幅が広がった。

2022年に初シード権を確保したときには、「自分へのご褒美に」と100-500mmのズームレンズを購入。北海道出身の阿部は、オープンウィークに、地元北海道の山野に踏み入って野生動物の撮影旅行にも行った。そして今年に入ってからは仲のいい吉田優利から撮影を頼まれ、「ちゃんと人間を撮るのは初」と、海辺に吉田を連れ出してポートレートを撮った

今回日本シリーズで撮影することになったのは、「昨年も日本シリーズの観戦に来て、男子プロのゴルフを勉強しました」という話を我々取材班が聞きつけ、「それならば撮影を」とお願いした形だった。ゴルフの腕前も撮影の腕前も年々着実に力をつけている。女子ツアーの第一線で戦うプロが男子ツアーを切り撮ると、どんな写真になるのか?とても興味がわいてきた。

ゴルフと同じで「撮影準備」は入念に

プロゴルファーが朝のクラブハウスで体のケアをしたり、パッティンググリーンでその日のタッチの確認したりするのと同様に、阿部も事前準備は入念だった。

機材のチェックから始まり、レンズ周りはブロワーで“シュッシュッ”とホコリを取り除く。今回用意したカメラは、ボディがキヤノンの「EOS R7」でレンズが同じCANONの100-500mmのズームレンズ。最大500mmなので、ロープ際からでも選手の表情を鮮明に撮影できる。

通常トーナメントを撮影するカメラマンは、焦点距離の長いズームレンズ(もしくは400mmの単焦点レンズなど)と、焦点距離の短いズームレンズ(35-150mmなど)のカメラ2台持ちするのが一般的。

2つのレンズでカバーすることにより、多くの状況(急に近いところで事件が起きたとか)に対応できるようにしているのだ。しかし、阿部の場合は慣れないトーナメントの撮影ということもあり、身軽に1台を持って中長距離で選手を切り撮ろうという作戦だった。

さらに阿部は、撮影前日に男子プロのスタッツを確認していた。「出場選手の平均パット、フェアウェイキープ率、パーオン率、SWセーブ率を見てきました。各項目の得意なショットを切り撮るのは分かりやすいですし、それなら“同じ絵”にならないかなと思って。単純に自分が男子プロの技を見てみたいという興味もありました」

もちろん顔と名前が一致しない選手もいるので、JGTO(日本ゴルフツアー機構)のホームページを見て選手の顔をしっかりチェックしてきたという。

そして担当編集と打ち合わせをして、この日の撮影プランは以下に決まった。

・スタート前の開会式の整列を撮る
・練習グリーンが開放的なので、パッティング練習を広い写真で撮る
・1番Hのティショットで最後の5組ぐらいを流して表情を撮る
・アウト3番グリーンと4番ティの辺りをウロチョロして撮る(光がいいとの情報をプロカメラマンからキャッチ)
・8番ティ、9番ティ、フェアウェイも逆光でキレイに撮れると聞いたのでそこもトライ
片岡尚之は同郷の先輩で親交もあるので、彼の得意のパッティングを撮る
石川遼推し(実は昨年も18ホールついてプレーを見て回った)なので、枚数多めに
・バンカーショットの砂がパラパラしてボールが写るキレイな写真を撮る(これが一番今回撮りたい写真らしい)
・後半は17、18番を中心に撮影。夕方の斜光を上手く利用して撮る
・名物の18番(特にグリーン)で選手の喜怒哀楽を切り撮る

いよいよ撮影…。2度目の「人間」はいかに?

「目立たない格好で来ました」と本人が言うように、この日は全身黒のいでたち。が、やはり女子プロのオーラは隠せないのか、歩いているといろんな人から声をかけられる(女性カメラマンが珍しいというのもあるのだろう)。

プロキャディはもちろん、選手にも気づかれ、「何してんの?」と同郷の先輩・片岡尚之に突っ込まれるシーンも。男子プロを見に来たギャラリーからも「阿部選手ですよね?」と気づかれることも多かった。

選手たちは、試合中でも阿部を見つけるとカメラ目線でピースサインを送るなど、サービス精神旺盛。「試合中にピースしてくれるのってカメラマン的にうれしいんだなぁ。私ももうちょっとカメラ見ようっ」とシャッターを切りながら阿部はつぶやく。

写真を撮っていて、阿部はまず男子プロのスピードの速さに戸惑った。それは打つまでのルーティンの速さと実際の球のスピードの2つの速さ。

「プレースピードが速くて、普段の自分のスピードと全然違う。ファインダーを見ていたら、『あ、もう打つんだ』ってシーンが多かったです。事前の素振りやイメージ作りの時間は女子と変わらないですが、打つって決めてからが早い。女子は構えてからも長いですからね」

また、そのスイングスピードの速さに、「普通に見とれてしまってシャッターを押すのを忘れるときがありました(笑)」

続いて阿部が「難しいな…」と思わず口にしたのが、光線と撮影場所の関係だ。この日は雲ひとつない快晴。日差しがたっぷり降り注いで、またとない撮影日和だった。

「いい光で撮りたいけど撮影場所の制約があって、思うような場所に陣取れない。半逆光で人物を浮かび上がらせるように撮る技法も教わりましたけど、上手くそのような位置から撮れないもどかしさがある。やっぱりカメラマンさんってすごいな…」と、周囲のプロカメラマンを見回す。

それでも「5番の2打目は打ち上げになっていて広い絵が撮れるよ」とか、「8番のティイングエリアは背景もよくて逆光でキレイに撮れるから行ってみたら」など、先輩カメラマンたちからやさしいアドバイスを受け、その情報を聞くなり重たい機材を肩に担いで指定の場所に向かっていった。

東京よみうりはアップダウンもあってカメラマン泣かせのコースでもあるが、さすがの脚力、ロープ際を颯爽と歩く姿は実に様になっていた。

前半戦の撮影を終えて意気消沈の阿部。何があった?

「私の撮る意味って何だろう…」

前半アウトコースの撮影を終えて、プレスルームに帰ってきた阿部は、機材を机に置くなりそうつぶやいた。いった何があったんだろうか。

「もっと近づいたらいいのが撮れそうなときもあるけど、選手がちゃんとプレーできるのが最優先なので、めちゃめちゃ近づけるわけでもないし。背景が悪い時なんかは、飛球線の前に立って撮りたい時もある…。ただのペーペーがこんなことしていていのかなって途中思っちゃって」と初の撮影を終えて悩みが増幅しているようだった。

「今回自分でやってみて、普段女子ツアーを撮ってくれているカメラマンさんたちの凄さを改めて感じました。制約があるなかで、一瞬一瞬をキレイに切り撮っている。私は今までの撮影は『失敗したらインスタに上げなければいいや』という軽いノリでしけど、今回は作品も載るから失敗もできないし、プレッシャーもあります」と言いながら、プレスルームのお弁当をモグモグ。後半戦へのエネルギー補給をする阿部だったが、明らかに朝のテンションとは違うトーンダウンっぷり。果たして後半、巻き返すことがができるのか…。

フォトグラファー阿部未悠の戦いは後編に続く…。次ページで前半戦に撮った写真を載せています。(編集・構成/服部謙二郎)

ではフォトグラファー阿部未悠が撮った写真を振りかえってみよう

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