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オーガスタナショナルの開放と72人の女子アマへの期待

◇女子アマチュア◇オーガスタナショナル女子アマチュア 最終日(6日)◇チャンピオンズリトリートGC(ジョージア州)◇6355yd(パー72)

インタビューエリアに進もうとした選手たちは、近くにいた女性スタッフに呼び止められた。「ヘアスタイルを整えてから行きましょう」と促され、いったん、すぐ脇の化粧室へ。開幕前の練習を終えた安田祐香の前髪は、キャップの下で額にはりついていた。「急いで水をつけて直そうとしたら…もっと“ぺったんこ”になっちゃった」と恥ずかしそうに手をやったが、そんな小さくとも優しい気づかいが、産声を上げたトーナメントには溢れていた。

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世界のトップ女子アマ72人が出場した「オーガスタナショナル女子アマチュア」は今年、男子メジャー「マスターズ」の会場であるオーガスタナショナルGCが新設した。1933年の開場から、クラブが女性メンバーを迎え入れたのは約80年後の2012年。厳格さを貫いてきたプライベートクラブにとって今大会は、時代の流れに沿った門戸開放の事実をアピールする機会でもあった。

「やる」と決めたら、とことんベストを尽くすのがこのクラブの伝統だ。大会の招待を受けた25カ国の女子アマ選手たちは、憧れのオーガスタナショナルGCでのプレーをかけて予選ラウンドを戦った。その36ホールの会場だった近隣のチャンピオンズリトリートGCも、オーガスタがコースだけでなく木々などの外観セッティングも指示。屋外に置かれた仮設トイレも清潔感があり、女子ゴルファーに好評だった。

期間中の半分は夜にパーティが行われた。カジュアルウエアの装いで始まった1日(月)の前夜祭は近隣の野球場で開催され、参加選手がチームに分かれてニアピン対決を実施するなど、たくさんのアクティビティで交流を図る。ティファニー製の優勝カップも披露され、最後は花火まで打ち上げて雰囲気を盛り上げた。胸いっぱいにホテルの部屋に戻ると、デスクにはアクセサリーのプレゼントが置かれている…というサプライズまで。そんな風に手のこんだ演出に心をつかまれない女性はいない(はずだ)。

■オーガスタと女子ゴルフ

オーガスタという地域においては過去、マスターズ会場の周辺で1966年まで「タイトルホルダー選手権」が、2001年から4年間は「アサヒ緑健インターナショナル選手権」という女子プロ競技が開催されていたが、オーガスタナショナルの門は固く閉ざされていた。開放の機運がもっとも高まったのは1996年、アトランタ五輪で開催候補地として挙がったタイミングだったが、結局ゴルフの正式種目復活が見送られ、実現に至らなかった。

ただし、創始者のボビー・ジョーンズが“女人禁制”という考えを率先していたかといえば、そうではない。彼の子孫である、ボビー・ジョーンズ4世は地元紙「オーガスタクロニクル」にこう訴えている。

「人々は祖父が女子ゴルフに対してどれほど支持していたかを忘れている。彼はルイーズ・サッグスをはじめとしたLPGAの創設者とのミーティングを、オーガスタナショナルで行うようアレンジした。彼はいつも(女子ゴルフの)支持者だった」。そもそも、ジョーンズが設計家アリスター・マッケンジーと当地のデザインを始めた際には、同じ20世紀初頭の女性ゴルファー、マリソン・ホリンズにもアドバイスを求めていたという。

■女子ゴルフの新たなリーダーとして

“球聖”ジョーンズが世を去って48年後の今年、いよいよ行われた初の女子競技。16番(パー3)は、マスターズ最終日の恒例のピンポジション、2005年にタイガー・ウッズがチップインバーディを奪ったグリーン左端にカップが切られた。最終18番のピンは前年のマスターズでは「グリーンの手前エッジから10yd、左エッジから4yd」。そして女子アマは「手前9y、左から5yd」と酷似していた。

オーガスタナショナルは蓄積してきた80年以上の伝統で、彼女たちを迎え入れた。そしてまた、先駆者となった72人にもオーガスタはメッセージを送っている。

大会は数カ月前から、PR活動の一環として、SNSなどで時代をリードした女性を紹介し続けた。女性初のノーベル賞受賞者(物理学賞・化学賞)であるキュリー夫人。女性として初めて大西洋の単独横断飛行に成功したアメリア・エアハート。初めてボストンマラソンに挑戦した女性ランナー、キャサリン・スウィッツァー。宇宙飛行士のサリー・ライド…。分野は違えど、同じように後人に影響を与えていく期待をかけている。

トップレベルにある女子アマは多くの場合“期間限定”だ。プロ転向を控える選手が多く、「また帰ってきたい」と簡単に言えないところに、マスターズとは違うはかなさもある。それでも、今年プロテストを受験するつもりの安田は「オーガスタで、ゴルフを男女関係なくできるというのがうれしい。もっと注目されて、いろんな人にこの大会を知ってほしい」と言った。同じ3位に入ったフィリピン・日本の二重国籍のユウカ・サソウ(笹生優花)も、ホールアウトするなり、小学校低学年とおぼしき少女たちのサイン攻めにあっていた。(ジョージア州オーガスタ/桂川洋一)

桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール

1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw

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