叙勲受賞の前会長と兵庫県ゴルフ連盟“コロナ禍の決断”
2025年4月29日に発令された春の叙勲で、兵庫県ゴルフ連盟の鈴木一誠(すずき・かずのぶ)名誉会長は、長年のスポーツ振興功労を認められて旭日双光章を受章した。2014年から11年間、兵庫県ゴルフ連盟の会長として県のゴルフ振興に尽力した鈴木氏は、昨年9月に生涯スポーツ功労者として文部科学大臣表彰を受けたばかり。重なる栄誉に「びっくりしています」と、面映ゆそうな表情を浮かべた。
兵庫県は日本最古の神戸ゴルフ倶楽部や、世界ゴルフ場ランキングで国内トップの廣野ゴルフ倶楽部を有し、千葉県に次いで全国第2位のゴルフ場数(157コース)を誇る国内ゴルフの中心地の一つ。「兵庫県は恵まれています。連盟は皆さんから頂いたお金で運営していますが、私たちは他県より多くの収入があるわけです。ですから、ジュニアからシニアまでいろんなことをやっています」と言う鈴木氏は、会長在任中にいくつかの大会を立ち上げている。
その一つ、2020年に発足した兵庫県民ゴルフ大会はダブルペリア方式のハンディ戦。連盟の加盟コースで行われる各市町ゴルフ団体による地区予選の上位6人が、連盟主催の決勝大会に進出する。同年にスタートしたU-15クラブチームゴルフフェスタは、ゴルフが上手な子だけでなく、始めたばかりの子も参加できるように4人1組のチーム戦とし、ハンディキャップインデックスまたは申告ハンディを使って、4人中3人のネットスコアの合計で競う。「うまくなくても、そこでゴルフをやったことを思い出して、いつか戻ってきてくれる。とにかく楽しませて帰らせよう」と、大会ではさまざまなイベントも実施している。
鈴木氏ら兵庫県ゴルフ連盟が推進してきた競技を通じたゴルファー育成は、顕著な成果を残している。2025年現在、国民スポーツ大会の成年男子・少年男子・女子と、日本スポーツマスターズの男子55歳以上、女子50歳以上というゴルフ競技全5カテゴリで優勝チームを出しているのは、47都道府県中で兵庫県ただ1県。その記録は2023年に達成された。
◆競技は止めない ~コロナ禍の決断~
世界が見えないウイルスの恐怖に怯えた2020年、兵庫県ゴルフ連盟は大きな判断を示している。「ゴルフは接触スポーツではないし、2m以内に密集することもめったにない。クラブハウスの立ち入りを禁止したり、競技が終わったらすぐ帰ってもらったり、どうやったら安全確保できるかをよく調べて、危険度の境界線を引き、大丈夫な方だけでいけるぞとなったので、そこでゴーを出しました」と、いち早く競技実施を決断したのだ。
会長の決断は、周囲にとっても驚きだった。「役員会で会長が『兵庫県は感染予防を徹底して、全競技の全種目をやる』という宣言をされた時はびっくりしました。同時にみんなが『よしやるぞ!』という感じになりましたね」と連盟の中山広隆・事務局長は振り返る。事務局に参加者の家族から不安を訴える電話が来ても、基本方針は揺るがない。兵庫県の判断は周辺地域にも影響を及ぼした。「兵庫県はどうするのですか?」「会長が全部やると言っています」「分かりました、我々もがんばります」――選手、ゴルフ場、連盟スタッフが力を合わせて安全確保や日程調整を繰り返し、結果的には同年に予定されていた連盟主催の52大会、及び各クラブ主催の予選51会場(2994人参加)すべてを無事完遂した。
屋内でやれることは制限され、人々はゴルフに救いを求めていた。この年、連盟主催による男女プロアマ混合のアンダーハンディ戦「のじぎくオープン」の予選会には、前年比1.5倍となる3802人が参加した。昨年、安田祐香が制した「のじぎくオープン」は、2026年の第20回大会を廣野ゴルフ倶楽部で迎える予定だ。朗報は、この大会が日本全国のアマチュアに門戸が開かれているということ。たとえ関東に住んでいても、兵庫県内のゴルフ場で行われる予選会さえ突破すれば、決勝大会に進出できる。その枠は前年のベストアマを除いて89人。例年、予選会には3000人超のエントリーがあるので、決勝進出の可能性は単純計算で3%弱。その先には、憧れの廣野でのラウンドが待っている。(写真・文/今岡涼太)
今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール
1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka