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小林至博士のゴルフ余聞

米ツアー来季新規大会にかくも懐かしき「マートルビーチ」の名称/小林至博士のゴルフ余聞

2023/05/31 18:07

米PGAツアーが、来季導入する新規大会の名称に、懐かしい気持ちになった。「ザ・マートルビーチクラシック」。アメリカには無数のゴルフリゾートがあるが、マートルビーチは、「Golf Capital of the World(ゴルフの都)」を自負する、アメリカのゴルファーなら誰でも知っている、際立った地だ。

人口は約3万人という小さな町だが、サウスカロライナ州北東部の大西洋岸に横たわるビーチ沿いに90を超えるゴルフコースがひしめき合い、年間の来訪者は毎年1400万人を超える。そのほとんどがゴルファーだ。

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私が最初に訪れたのは、ニューヨーク在住の大学院生だった1995年の夏である。当時、購読していたゴルフ雑誌に、毎号のごとく、大きく掲載されていたマートルビーチのゴルフパッケージの広告記事を読むたびに思いを募らせ、大学院の仲間と連れ立って行くことになった。

広告に踊っていた文字列は、実に魅力的だった。「3泊4日、ゴルフ4ラウンド、エア込みで295ドル」。当時は、1ドル80円前後で推移した時期もある円高時代で、2万5000円程度だ。日本で1ラウンドするより安い!と目が釘付けになった。便はマートルビーチ・ジェット・エクスプレスという聞いたこともない航空会社で一抹の不安がよぎったが、ゴルファーのために新たに就航した直行便、安全・快適と記されており、それで納得した。

パッケージは安くとも、コースは上々という巷の噂はその通りで、ジャック・ニクラス設計のコースなど、圧巻の景観は目に焼き付いている。ただし、蒸し暑いなか、朝から大酒を飲みながらのプレーだったため、ラウンド中の記憶はあまりない。

レストランもバーも、煙草に対する規制が何もなかったことはよく憶えている。カロライナは煙草の名産地である。当時、大都市を中心に、喫煙を取り締まる動きが急速に高まっており、ニューヨークでは、レストランが分煙になったと思ったら、数カ月後には全面禁煙になり、当時、愛煙家だった私は肩身の狭い思いを深めていた。しかし、カロライナは違った。スーパーでは、客はくわえタバコ、レジ打ちのおばちゃんも紫煙を噴き上げ、客と談笑していた。アメリカの広さと多様性を実感した旅でもあった。

ゴルフパッケージの元祖を自負するマートルビーチの人気は今も健在だ。マートルビーチ・ジェット・エクスプレスは2000年に廃業となったが、直行便は全米50都市に広がり、空港からも近く、それでいて、他のゴルフリゾートに比べて廉価である。ビーチやナイトライフはともかく、とにかくゴルフだ、という向きには、おすすめの地である。(小林至・桜美林大教授)

小林至(こばやし・いたる)
1968年生まれ。江戸川大学教授を経て、2020年4月から桜美林大学(健康福祉学群)教授。92年、千葉ロッテにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌年からアメリカに在住し、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)取得。2002年から江戸川大学助教授となり、05年から14年まで福岡ソフトバンク球団取締役を兼任。「パシフィックリーグマーケティング」の立ち上げなどに尽力。近著に『スポーツの経済学』(PHP)など著書多数。

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