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小林至博士のゴルフ余聞

PGAツアーは年間7億ドル 米メジャースポーツ放送権高騰の背景

2022/01/30 16:06

米PGAツアーの放送権(米国とカナダ)収入が年間7億ドルに達した。直近のレートで邦貨換算すると800億円近くにのぼる。思い出すのは1997年、フロリダ州オーランドでゴルフ・チャンネルに勤務していたときのことだが、タイガー・ウッズの出現をテコに、PGAツアーはそれまでの倍額となる100億円に引き上げることに成功した。そこからの成長ぶりは、あっぱれのビジネス力である。

今もテレビ放映権料の王様はNFL(アメフト)で、1997年当時1000億円、現在は1.6兆円。近年、人気が低落傾向にあるMLB(大リーグ)でも当時700億円、いま5000億円である。ゴルフに限らず、アメリカのメジャースポーツの放映権収入は、今世紀に入って指数関数的な成長を続けている。

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なぜこのような高騰が続いているのかというと、もちろんグローバル化もある。スポーツは、世界どこにいてもライブで楽しめる商品(試合)特性ゆえグローバル化の申し子で、広告宣伝のツールとしても最高の媒体だというのは、よく知られた話である。米メディア大手のディスカバリー社がPGAツアーの国際放送権(米国とカナダ以外)を2019年から12年間、約2200億円で購入したのはまさにそういうことだ。

だが、それだけでは、アメリカのスポーツ・コンテンツの放送権料が高騰し続けている理由にならない。たとえば、ファンがほとんど米国に限られるNFLの放送権料がこの四半世紀で16倍になっていることの説明はつかない。結論から言うと、最大の要因は自由な競争環境が確保されていることにある。

日本はNHK+民放5局の地上波が主流の状態が50年以上続いているが、アメリカは1985年にオーストラリアのメディア王ルパート・マードック率いるFOXが地上波に参入し、90年代以降のコンテンツ獲得競争に火をつけて以降は、地上波、CS局が入り乱れ、その所有者も入れ替わり立ち替わり、さらに急伸するインターネット放送局が参戦し、生き馬の目を抜く大競争時代が続いている。

例えば、世界最大のスポーツ専門局のESPNは、日本の民放局の倍以上の売り上げを誇る巨大メディアだが、スタートは1979年、会社をクビになったサラリーマンが始めたベンチャー企業である。しかし、その世界トップの座も決して安泰ではない。アメリカのテレビ離れも急速で、ESPNの視聴契約者数は最盛期から20%ダウンし、従業員の大幅リストラを余儀なくされている。DXを急ピッチで進めているが、アマゾンがNFLの木曜日の試合の独占中継権を獲得するなどネット勢の攻勢は凄まじく、状況が改善したという話は聞かない。

アマゾンの株価の時価総額は150兆円を超え、ESPNの親会社であるディズニーの6倍。ガチンコで争奪戦となればESPNは勝てない。ディズニー資本のままでいると、アメリカのスポーツビジネスでいま最も重要なベッティング対応も十分にできないから、切り離すことも噂されている。巨大メディア企業の顧客獲得競争に、大きな役割を演じるメジャースポーツの放送権の高騰はもうしばらく続きそうだ。(小林至・桜美林大学教授)

小林至(こばやし・いたる)
1968年生まれ。江戸川大学教授を経て、2020年4月から桜美林大学(健康福祉学群)教授。92年、千葉ロッテにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌年からアメリカに在住し、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)取得。2002年から江戸川大学助教授となり、05年から14年まで福岡ソフトバンク球団取締役を兼任。「パシフィックリーグマーケティング」の立ち上げなどに尽力。近著に『スポーツの経済学』(PHP)など著書多数。

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