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小林至博士のゴルフ余聞

アマチュアのスポンサー契約に見る女性アスリートの訴求力/小林至博士のゴルフ余聞

アマチュア女子ゴルファーの馬場咲希(代々木高2年)が、サントリーとスポンサー契約を結んだ。これをもっていよいよプロ転向ということではない。昨年1月からの規則変更で、アマチュアも企業とスポンサー契約を結んで金銭を受け取れるようになったのだ。テレビCMや動画配信で稼ぐことも可能。金額に上限もない。適用範囲は全世界である。アマチュアであることによる制約は、大会で賞金を受け取れないことと、レッスン料を取れないことぐらいとなった。

ゴルフは、世界では珍しい、アマを「資格」として保護対象としてきた競技である。金銭的利益や私的な便宜を享受することが一切禁じられ、違反した場合はアマ資格を喪失することになっていた。それが昨年、コペルニクス的転回を遂げた大きな理由は、米国の大学スポーツでアマチュアリズムが終焉(しゅうえん)したからである。

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米国の大学スポーツは1兆円規模の巨大な市場で、とりわけその75%を占めるアメリカンフットボール、15%を占めるバスケットボールは高度にビジネス化されている。両競技の強豪大学ともなると、テキサス大の250億円を筆頭に、上位50大学が100億円を超える年間興行収入を得ている。プロをも凌駕(りょうが)する、とよく言われるが、日本のプロ野球球団の1シーズンの平均売り上げが推定160億円、プロサッカーJ1クラブのそれは41億円で、まさにその通りである。

一方で、その中央統括団体であるNCAA(全米大学スポーツ協会)はアマチュアリズムの最後の砦と呼ばれる厳格さで知られ、選手はいかなる報酬の受け取りも禁じられてきた。

これに対して、指導者(年収10億円なんて方もいる)はもちろん、大学によってはマーケティングの責任者まで億を超える報酬を手にしているのに、学生はタダ働き、搾取だという不満や同情の声は以前からあった。

興行力(売り上げ)が右肩上がりで増えるにつれ、同情の声と訴訟の数も増し、ついに2021年、NCAAは選手による自身の肖像を活用したマーケティング活動(エンドースメント)を容認したのだ。

その結果が興味深い。当初、恩恵を受けるのはアメフト、男子バスケのスター選手に限られるだろうと予想されていたが、ふたを開けてみたら、女性アスリートの躍進が顕著なのだ。アメリカの調査会社によれば、解禁からの1年間で、NCAAの学生選手が得たエンドースメント契約の総計は1200億円で、その51%を占めるアメフトを除くと、女性選手の方が稼いでいる。

競技別トップ10でみると、3位の女子バスケをはじめ女子競技が6。個人では、アメフト選手も含めたトップ25のうち、15人が女性アスリートである。米国は1972年に定められた男女教育機会均等法(タイトルⅨ)の成果で、男女アスリートにも同等の機会が与えられるようにはなったが、メディア露出、人気ともにその差は埋まらないままだった。しかし、自ら世界中に向けて発信できるSNS時代の今、実は、女性アスリートに大変な訴求力があることが証明された格好だ。

今のところ、学生ゴルフは競技としては男子21位、女子22位とエンドースメント契約においては目立っていないが、男子ではアーカンソー大のジョン・デーリー2世やスタンフォード大学のローズ・チャンらがエンドースメント契約を結ぶなど広がりを見せつつある。馬場も米国の大学ゴルフ部という選択肢はあるかもしれない。

それにつけても、スタンフォード大ゴルフ部員だったタイガー・ウッズアーノルド・パーマーと会食して“ごち”になって大問題となり、食事代25ドルを払うことで除名を免れた1995年からすると、想像もつかない時代となった。(小林至・桜美林大学教授)

小林至(こばやし・いたる)
1968年生まれ。江戸川大学教授を経て、2020年4月から桜美林大学(健康福祉学群)教授。92年、千葉ロッテにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌年からアメリカに在住し、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)取得。2002年から江戸川大学助教授となり、05年から14年まで福岡ソフトバンク球団取締役を兼任。「パシフィックリーグマーケティング」の立ち上げなどに尽力。近著に『スポーツの経済学』(PHP)など著書多数。

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