【特集 タイガー・ウッズの見方(6)】テレビ解説者&プロゴルファーの視点
2000年 全米プロゴルフ選手権
期間:08/17〜08/20 場所:バルハラGC(米国ケンタッキー州)
乱戦、死闘プレーオフを制してタイガー、メジャー年間3連勝!
意外な展開だった。前半タイガーは苦しみ抜き、一時は11アンダーにまで後退。無名のボブ・メイのリードを許してしまった。しかし二人のマッチレースとなってからは追いつき、引き離され、そして17番で並んだものの18番でもバーディ応酬で決着がつかず、死闘の末、ついに18アンダーで3ホールプレーオフに突入。
しかしプレーオフではさすがにタイガーに分があった。1ホール目の16番でバーディを放り込んで一歩リード。そのまま18番までキープしきって、ようやくメイを突き放した。
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思い返せば去年のメダイナでの全米プロも死闘だった。楽々逃げきりかと思われた展開から意外な苦戦に落ち込み、セルヒオ・ガルシアとの薄氷を踏むような戦いになった。そして今年もまた、タイガーなら簡単に逃げきりと信じていたファンを裏切るような、前半のもたつきだった。単独首位の13アンダーでスタートしながらバーディがとれず、2番、6番とボギー。フロント9はかろうじてという印象のパープレー。下からはビヨーン、アプルビー、ランガム、オラサバル・・どんどんスコアが伸びてくる。大混戦。おそらくタイガーの視野にも入っていなかったはずのボブ・メイがしぶとく健闘して首位に踊り出る。
タイガーにとって状況が一変したのは、おそらく7番のバーディからだろう。ラフからうまく乗せて初バーディ。8番でようやくメイをとらえた。初めての小さなガッツボーズ。また離された11番の後の12番では強気のパットを放りこむ。ラインに集中するタイガーの表情が、悲哀に満ちた阿修羅像のように見えてきたのは14番、15番あたりからだろうか。周囲を一切排除した、自分だけに集中しきった表情。まるで泣きだしそうな女の子のように見える、没入しきった不思議な表情。やっと本当のタイガーが戻ってきた・・・。
ボブ・メイも本当によく健闘した。まだ31歳ながらもう髪も薄くなった小太りの体型。アメリカの中西部あたりを歩いていると、どこにでもいそうな平凡そのもの。欧州で1勝だけという、実績もほとんどないに等しいマイナープロ。いつ崩れるか、と見られながらしかし本人も本人なりにコンセントレーションの固まりになりきっていた。
15番。タイガーが大ピンチから奇跡的なパーセーブ。同じホールでメイは信じられないようなバーディチャンス外し。ここで流れが一気に変わった。もうタイガーの流れに一変したはずなのだが、まだメイは踏ん張り続ける。17番、苛立ってドライバー勝負にでたタイガーが1.5メートルを決めてガッツポーズ。17アンダー。ついに追いついた。次の18番ではタイガーはバーディが計算できるし、メイはまだ18番でバーディを取ったこともない。もう決まった・・とタイガーは確信したに違いない。
しかし苦手な18番、ファーストパットを奥のカラーまでオーバーさせたメイは、信じられないような長いパットを転がしこんでバーディ。もちろんタイガーもまた微妙な下りを流しこんでバーディで返す。スーパースターと無名の平凡プロの戦いは、予想もしない名勝負になってしまった・・。
プレーオフ1ホール目。ヒンハイ5メートルを放り込んで、タイガーが野獣のように咆哮した。メイは左ラフから渡り歩いての3オンパー。ようやく、タイガーにアドバンテージが生まれた。そしてタイガーがこういう場面で貯金を握ったら、もう離さない。続く17番はトラブルショット合戦の応酬でともにパー。18番もまたトラブルの末にともにパー。長い長い戦いがようやく幕を閉じた。タイガー・ウッズが苦戦の末のメジャー5勝目。ベン・ホーガンに続く年間メジャー3勝。このタイガーにとってさえ、メジャー勝利は決して楽には手に入らないことを証した4日間だった。