「憧れはヒデキ」3年の下部ツアー生活 イ・キョンフンに開ける世界
2021年 AT&Tバイロン・ネルソン
期間:05/13〜05/16 場所:TPCクレイグランチ(テキサス州)
松山英樹も「別格」とうなったアマ時代 イ・キョンフンの夢を追う覚悟
「AT&Tバイロン・ネルソン」でPGAツアー初優勝を飾ったイ・キョンフン(韓国)。米国でシードを手にしたのは2019年でしたから、僕の中では日本ツアーで戦っていたときのことが記憶を占めています。
人懐っこい笑顔であいさつをしてくれる姿が印象的。歌うことが大好きで、プロゴルファーになるか歌手になるか悩んだほどだったとか。日本語も堪能なお父さんが付きっきりで転戦をサポートし、一人息子を大事にしている様子も伝わってきました。
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ツアー仲間に聞いても「怒っているのを見たことがない」と口をそろえる好青年。ソフトな雰囲気をまとう一方、選手としては二十歳そこそこだった当時から“本格派”のにおいがこれでもかと漂っていました。
2010年のアジア大会で金メダルを獲得した韓国代表メンバーで、母国の兵役義務も免除された期待の星。同学年にあたる松山英樹選手もアマチュア時代を振り返って「別格だった」と話していたことがあります。砲丸投げで鍛えたという体幹は安定感抜群で、スイングの美しさもピカイチ。よく練習する選手でもありました。
QTトップ通過で参戦した日本ツアーで早々に優勝。15、16年と韓国のナショナルオープンも連覇しました。順風満帆ともいえるエリート街道を歩んできた中での米下部ツアー挑戦は、決して簡単な決断ではなかったと思います。
賞金はむしろ日本のレギュラーツアーより安い傾向にありますし、田舎町での開催も少なくないため移動の大変さだって段違い。日本で戦っていたときのように、お父さんが献身的に支えてくれたそうです。タフな環境で3シーズン歯を食いしばり、最高峰の舞台で戦う資格を手にしました。
韓国籍の選手で8人目となるPGAツアー優勝。K.J.チョイ(チェ・キョンジュ)に始まり、Y.E.ヤン、ノ・スンヨル、ベ・サンムン、キム・シウー、カン・スン、イム・ソンジェ…日本を経由するパターンもありますが、全員がシビアな最終予選会を切り抜けるか、下部ツアーからはい上がってタイトルをつかんだ選手たちです。そのチャレンジ精神こそがチャンスを生み出し、夢をかなえる結果につながっているのだと教えられます。
最終日はリードを持って迎えた残り3ホールで大雨の影響による2時間超の中断。メンタル的にも難しい状況で、圧巻だったのは17番(パー3)。2打差を追うサム・バーンズがチャンスに絡めた後、さらに内側のピンそば1m強につけるスーパーショットでバーディを奪い、優勝をグッと引き寄せました。
豊かな才能に磨きをかけたのは、先人たちにも通ずる異国の地で戦っていくというブレない覚悟。ひとつの目標を達成し、大きな自信になったはずです。また一人、強くたくましい選手が出てきました。(解説・進藤大典)
- 進藤大典(しんどう・だいすけ)
- 1980年、京都府生まれ。高知・明徳義塾を卒業後、東北福祉大ゴルフ部時代に同級生の宮里優作のキャディを務めたことから、ツアーの世界に飛び込む。谷原秀人、片山晋呉ら男子プロと長くコンビを組んだ。2012年秋から18年まで松山英樹と専属契約を結び、PGAツアー5勝をアシストした。