なぜ、2023年は「パターの年」だったのか(前編)
なぜ、2023年は「パターの年」だったのか(後編)
通常、ギア関連のニュースで最も注目されるのは、新しいドライバーであり、そこに搭載された宇宙時代のテクノロジーである。ドライバーの飛距離は、これまでにないほど重要視され、各メーカーは最新の製品に違いを生み出し、貴重な数ヤードの差を絞り出すため、飛距離アップに心血を注いでいる。
しかし、2023年に最も話題を提供したのは、その対極に位置する、最短のショットのために使用されるクラブだった。複数の選手がグリーン上での変化によりヘッドラインを飾った。今年のPGAツアーは、「パターの年」だった。
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前編に続き、23年に行われた主なパター変更を紹介する。
ジェイソン・デイ
ジェイソン・デイはまず1月に、パターを漆黒のマレット型カスタムのスコッティキャメロンF-5.5ツアーに変更してヘッドラインを飾ったが、5年ぶりの優勝を手助けしたのは、このパターではなかった。
5月「AT&Tバイロン・ネルソン」で優勝する1週間前、2015年「全米プロゴルフ選手権」制覇を含む5勝をもたらした伝説的なパターであるテーラーメイド ゴースト スパイダー Itsy-Bitsy ブラックに戻した。このパターには少なくとも、もう1勝分の余力があったわけだ。
デイはGolfWRX.comに対し、「総合的に見て、あのスコッティキャメロンのパターは今でも良い感じで、全てにおいて最高だし、とても気に入っているんだ。ただ、どういうわけか、僕はこのテーラーメイドを手に取ってみると、なんともこの重さがしっくりきてね。映画の登場人物が刀を手にしたとき、“おお、これぞ完璧なバランス”みたいな、正にああいう感じがしたんだ。 “おいおい、なんてこったい”とね。バランスや重さの感じ、そして振り心地。僕がそれまで使っていたものより、断然均整が取れているようで“うお、これはかなり良いぞ”となった。パターを見下ろすと、とてもスクエアに見えたしね」と述べた。
その後は再度赤いモデルのパターに戻しているが、今も長年の相棒であるブラックモデルは、今後パッティングの起爆剤を必要とするときに備え、スタンバイしている。
ロリー・マキロイ
スコッティ・シェフラーと同様、ロリー・マキロイも頻繁にパターを替え、あれこれ試行錯誤したことで、23年は何度もギア関連のニュースネタを提供した。
グリーン上での快適さを求め、マキロイは「WGCデルテクノロジーズマッチプレー」と「マスターズ」において、テーラーメイド スパイダー ハイドロブラスト マレットパターから、スコッティキャメロンのブレードパターに乗り換えた。しかし、この新しいパターが優勝をもたらすことはなく、続くメジャー3大会を使い慣れたスパイダーでプレーした。
その後、フェデックスカッププレーオフシリーズを前に、地元のゴルフショップで短尺化したスコッティキャメロン ファントムX 5.5マレットに変更したが、その微調整を施した新しいパターも実を結ばず「ツアー選手権」を前に、再びスパイダーに戻している。
マキロイのパターを巡る一大ストーリーが結末を迎えるのは、まだまだ先のことのようだ。
スコッティ・シェフラー
昨季PGAツアー年間最優秀選手のシェフラーは、23年に別次元のボールストライキングを披露し、ストローク・ゲインドのオフ・ザ・ティとアプローチ・ザ・グリーンの両方で1位に君臨したが、グリーン上では苛立っていた。「ザ・プレーヤーズ」を含む2勝は、使い慣れたスコッティキャメロン スペシャルセレクト タイムレス ツアータイプGSSブレードパターで挙げた。キャリアの大半でカスタムのスコッティキャメロン ブレード型パターを使ってきたが、23年はより大型のヘッドを試しており、1年を通じてパターで試行錯誤を繰り返した一人となった。
まず「全米オープン」で、よりワイドボディでソールに2つの25グラムウエートが装着されたことで安定感の増したスコッティキャメロン タイムレス ツアータイプモデルを使用したが、この試みも長続きしなかった。
その後、プレーオフ初戦の「フェデックスセントジュード選手権」で、テーラーメイド スパイダー ツアーX “SSプロト”のテストを開始。他のスパイダーの設計と異なり、彼のプロトタイプはソフトインサートの代わりにミルドフェースで組み上げられた。この仕様変更によりフェース寄りにパターの重量を配置することができ、結果としてよりブレード型に近い打感とインパクトでのリリースが実現した。
アクシェイ・バティア
2023年7月「ジョンディアクラシック」まで、アクシェイ・バティアはアームロックグリップの装着されたカウンターバランスのオデッセイ トライホット5K No.7パターを使っていたが、PGAツアー優勝を手にできなかった。
変化の必要性を感じたバティアは、父親に電話し、バックアップ用パターを送ってもらった。本番用とヘッドのデザインは似ているが、カラーリングはアライメントの視覚的な補助として、オデッセイのバーサ特有の白黒仕様になっていた。
「僕は色合いが黒とグレーの通常のNo.7 5Kパターを使っていました。とにかくバーサの見た目が気に入っています。他とかなり違いますし、とても綺麗です。このバックアップパターは、何かしらの理由で、正しく狙いを定められなくなったとき用のものでした。実は『ロケットモーゲージ』で同じようなカウンターバランスのジェイルバードも試してみましたが、パットの調子が良くなく、父に頼んで、父の家に唯一あったこのパターをジョンディアの会場に送ってもらったんです。知っての通り、パットは断然良くなりましたし、一貫性が上がりました。今では、別のパターは触りたくないくらい。バックアップが新たに本番用になりました」と述べている。
父親への電話は正しい判断だった。2週後の「バラクーダ選手権」でPGAツアー初優勝を飾ったのだから。
サム・バーンズ
サム・バーンズは毎週、パターを替える類の選手ではない。毎週どころか毎月、毎年と言ってもいい。オデッセイ オー・ワークス ブラック No.7 S パターとずっと一緒だった。
17年「サンダーソンファームズ選手権」でのPGAツアーデビュー、18年ウェブドットコムツアー「サバンナゴルフ選手権」でのプロ初勝利はもちろん、21年「バルスパー選手権」と「サンダーソンファームズ選手権」、22年「バルスパー選手権」と「チャールズシュワブチャレンジ」、23年「WGCデルテクノロジーズマッチプレー」というPGAツアー優勝も同じパター。寛容性向上のため2本の牙が並んだ形状にデザインされたマレット型のヘッドを愛用してきた。
GolfWRX.comにおけるバーンズのキャリアを通じた“バッグの中身”履歴を振り返ってみると、プロ転向後、一貫してパターを替えていない。かなり強い絆だった。
しかし、23年の最終戦「ツアー選手権」で、蜜月期間は終焉を迎えた。イーストレイクにて、これまで誰も見たことがなかった、黒いフェースインサートと2個のソールウエートが装着されたカスタムのオデッセイNo.7プロトタイプパターに乗り換えたのである。一見すると、この新パターは彼がそれまで使用していたNo.7とほぼ同じに見えるが、長年の実戦使用モデルと比べると、ソールのヘッド形状にわずかな違いがある。
残念ながら、遂にオー・ワークス ブラック No.7パターをバッグから追いやった、謎に包まれたプロトタイプパターの詳細判明には、もうしばらく待たないといけない。
(協力/ GolfWRX, PGATOUR.com)