ウッズのバッグの中身は?
2020年 ZOZOチャンピオンシップ@シャーウッド
期間:10/22〜10/25 場所:シャーウッド(カリフォルニア州)
「ZOZOチャンピオンシップ」 米国開催を実現するまで
夏場のフロリダ州北東部にあるPGA ツアーの本部でも、日本にある株式会社ZOZO本社でも、数週の間、夜も深くなるまでオフィスの明かりが消えることはなかった。担当者たちは2020年の「ZOZOチャンピオンシップ」に関する複雑な決定に向けて、休むことなく動き続けていた。
同大会は他の多くの国際的なトーナメント同様、今年初めに発生した新型コロナウイルス感染拡大、世界的パンデミックによりスポーツ大会が中止を余儀なくされたあおりを受け、先行き不透明な状態に陥った。
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「とても困難な状況ではありましたが、非常にやりがいはありました」と、PGA ツアージャパンのビジネスディベロップメント、バイス・プレジデントのクリス・リーは言う。「皆さんもご存知の通り、ここ数カ月の出来事は決して楽なものではありませんでした。しかし、ZOZO様のお陰で、話し合いは多少なりともスムーズなものとなりました」
困難な壁と、いつ終わるとも知れぬ長時間に及ぶ作業は8月に入り、ようやく実を結ぶことになる。月末の31日、PGA ツアーとZOZOは、今年の大会を当初予定されていた日本からカリフォルニア州サウザンドオークスのシャーウッドカントリークラブに移し、開催することになったと発表した。10月22日(木)にいよいよ開幕する。
「今年はPGA ツアーのトッププレーヤーたちを日本にお迎えできず、選手たちのプレーを心待ちにしてくださっていた日本のファンの皆様が会場で応援いただけないことを残念に思います」と、株式会社ZOZO社長の澤田宏太郎氏は述べた。
「しかし、私たちは今年度のZOZOチャンピオンシップを米国で、そして高い評価を得ているシャーウッドカントリークラブで開催できることをうれしく思います。この困難なときに、今年の大会を日本のファンの皆様だけでなく世界中のファンの皆様にお届けできることを楽しみにしています」と続けた。
「私たちは選手たちにプレーする機会を提供できることを誇りに思い、今年10月に世界レベルの大会を開催すべく、引き続きPGAツアーと緊密に協力していきます」
新型コロナウイルスの影響
PGA ツアーとZOZOによる第2回大会開催へのコミットメントは、一度も疑われなかった。日本初開催となった昨年は、大会期間の前半こそ悪天候に見舞われたが、タイガー・ウッズがサム・スニードの持つ最多勝記録の82勝に並ぶなど昨シーズンの中でも特に記憶に残る大会となった。そのため、双方ともに舞台がどこであれ、2020年も開催することにいささかの疑問もなかったはずだ。
しかし、その道のりは決して単純なものではなかった。「私たちは日本史上最高の大会を開催することに目を向けていました。初年度はこれを達成できました」と語るのは、PGA ツアーインターナショナルのシニア・バイス・プレジデント、クリスチャン・ハーディー。「当初、開催地は日本以外に考えられませんでした。特に米国での開催は、ZOZOが米国で事業活動を現在行っていないことから、考慮の余地すらありませんでした」
しかし、その選択肢は徐々に現実味を帯びた。実際、米国は3月中旬頃まではパンデミックの波に飲み込まれてはいなかったのだが、PGA ツアーは「ザ・プレーヤーズ選手権」を第1ラウンドの終了後に中止した。その時点で、リーとハーディーや大会チームの全員は東京郊外のアコーディア・ゴルフ習志野カントリークラブでの2020年大会の可否について、内部の議論をすでに重ねていた。
PGAツアーは、今年の第1四半期にアジアオフィスを一時的に閉鎖することを決定していた。ハーディーはロンドンオフィスに出張を重ねる中で、今回の出張が今年最後になるだろうと予測していた。米国はロックダウンに追い込まれ、PGAツアーが日本で再開されるという見通しに暗雲がたれ込めはじめていた。
「毎日熱心に取り組んでいるPGAツアーのインターナショナルビジネスチームが、まずパンデミックの波に直面しました。北京オフィスが正月の直後に閉鎖を決定したため、中国でのツアーの事業が最初に影響を受けました」とハーディーは回顧する。
「国によってそれぞれ違った軌道をたどっていましたが、事態が深刻だということは分かっていました。そこで私たちはビジネスチームにこう伝えました。『不安をあおるような行動を取るには時期尚早なので、まだパートナー企業と詳細を決めない。しかし、今後起こりうる様々な事態を想定した上で、いつ協議を始めるかという、今後のプロセスと時系列については考えておく必要がある』と」
交渉はいかにして行われたか
今や世界中の常識ではあるが、未知のウイルスの脅威と戦う中で先を見据えて計画することは困難だ。日本政府や米国政府が、それぞれの国で大会の開催をそもそも許可するだろうか? ZOZOは昨年9月にヤフー株式会社に買収されたが、米国内での事業活動がないにもかかわらず米国開催を考えるだろうか?
今年の秋は例年と違い、8月後半に「全米オープン」、11月に「マスターズ」と2つのメジャー大会が行われる。この状況下で、他の大会が入りこむ余地はあるだろうか?
「日本での開催はとても難しいだろうと思っていましたが、ありがたいことに、我々には解決志向型のパートナー企業がいた」とリーは語る。「中止の議論もされたか? もちろん、それも選択肢の1つでした。PGAツアーのメンバー、ZOZOのビジネスニーズ、そしてファンの求めるものが合致する、最善の方策が見つからないシナリオもあるかもしれないと言わざるを得ませんでした」
「しかし、ZOZO様のおかげで、どのような解決策があるか、とても冷静かつオープンに建設的な議論を行えました」とリーは続けた。「パートナー企業によっては、最初から『X案もY案もZ案も受け入れられません』と突っぱねるところもあるでしょう。しかし、ZOZO様は一度もそのようなことは言いませんでした。もちろん、大変でした。しかし、最後の最後まで気を抜くことなく、順序立てて、注意深く検討を重ね続けたのです」
ハーディーは、2018年11月に初めて本大会について発表したときからZOZOとPGA ツアーが築き上げてきた絆と関係のおかげで、このような建設的な意見交換ができたと自負する。
新型コロナウイルスの影響で対面でのミーティングが難しくなり、それが大きな契約の場では致命的となり得た中で、双方の絆が大きな力を発揮したことは間違いない。交渉後のランチやディナーもなく、1、2時間という区分けされた時間割の中で淡々と行われたにもかかわらず、オンラインでのミーティングに伴う不安や懸念事項はすぐに払拭(ふっしょく)されたという。
「柳澤さん(柳澤孝旨ZOZO副社長兼CFO)をはじめ、彼のビジネスチームと長い間、緊密に仕事をしてきましたから、親しみもありお互いのことをとてもよく分かっていました」とハーディー。「PGAツアーの東京オフィスのスタッフも、当初の契約完了まで何カ月もの間、毎日彼らと顔を突き合わせてきました。このような複雑な問題を話し合う上で友好関係がなければ、今のこの複雑な状況に挑むのはさらに困難を極めたでしょう」
「Zoom会議に臨む際にも、まったく違和感はありませんでした。とはいえ、特にアジアでは、契約を円滑に進める上では人対人、個人間の関係を重要視するので、私たちの事業の大部分において今後の大きな課題となります」
日本開催に向けた長期間にわたる交渉、未曾有の事態の中でのPGAツアーメンバーへの支援、今後の大会のさらなる強化といった項目において、双方が意見を同じくしていたことが後押しにもなった。ZOZOは日本国内で様々なチャリティ活動を計画しており、収益は新型コロナウイルス拡散防止を含め、様々なプログラムや取り組みに寄付される。
日本でのPGAツアーの未来
2020年は引き続き予測不能な状況だが、リーとハーディーは、PGA ツアーは2021年に日本に再び戻るだろうと自信をのぞかせた。もちろん、新型コロナウイルス感染拡大を終息に向かわせる世界全体としての努力が大前提ではあるが、2人はZOZOとPGA ツアーのリーダーシップチームを、自信の根拠として挙げている。
2人の前向きな思いの大きな根拠には、シーズン再開後の“成功”もある。PGAツアーは今年、スポーツ界で最も早く再開された競技のひとつだが、現場では感染対策、健康・安全対策を徹底し、選手、スタッフともに大きな感染拡大を防ぐことに成功してきた。再開の指揮を執ったのはチーフトーナメント&コンペティションオフィサーのアンディ・パズダー、シニア・バイス・プレジデント&チーフ・オブ・オペレーションのタイラー・デニス、PGAツアーアドミニストレーションのシニア・バイス・プレジデントのアンディ・レビンソンの3人だ。
「この3人と彼らのチームが競技再開にあたって尽力してきた姿を見ていると、アジア開催に関してこれ以上ない自信を与えてくれます。他のスポーツに先立って、大会開催は実現可能だということを、彼らが証明してくれました」とハーディーは語る。
「また、開催に向けてともに動き出す中で、現場で感染症対策が徹底して行われる様子をZOZOの皆さんもリアルタイムで目の当たりにしてきました。そうして、我々の安全衛生対策を信頼してもらうに至りました。だからこそ、我々は日本に再び戻ることができると自信を持って言える。ZOZOとしても安全に開催する自信を持てるのです」と締めくくった。
PGA ツアーインターナショナル、エグゼクティブ・バイス・プレジデントのタイ・ヴォータウも同様の期待を寄せているという。
「昨年大会の成功に続いて今年のZOZOチャンピオンシップで日本を訪れることができず、選手たちはがっかりしていると思いますが、2021 年に日本に戻るのを楽しみにしています」と彼は語った。「最高峰の選手とともに米国、日本、そして全世界のファンの方々へ世界レベルの大会をお届けすることを大変うれしく思います」
契約はまとまった。ZOZOとPGA ツアーのチームは少なくとも一晩、ほっと一息をつくことができた。「我々にはクリエーティブで、解決に向けて一緒に取り組める最高のパートナー企業が必要でした」とリーは述べた。「ZOZOはまさにそういうパートナー企業なのです」