メモリアル50年 ニクラスの庭で見た伝統と革新、そして壊れたままの鍵
1976年に始まった「ザ・メモリアルトーナメント」は今年、50周年を迎えた。半世紀である。会場には50周年を祝うロゴが配されていたが、現場のボランティアらに「50周年だけど、今年は第51回大会だよね?」と確認すると、多くの人が「え、50回大会じゃないの?」と戸惑いを隠せなかったのが面白かった。
大会は、ホストのジャック・ニクラスの意向により「マスターズトーナメント」を“リスペクト”し、多くの要素がマスターズに沿った仕様になっている。キャディが試合で着用するジャケットは、マスターズで採用されている白いジャンプスーツがオリジナル。元々は“つなぎ“だったが、季節の違いを考慮して2000年ごろから上着のジャケットのみになっている。
会場内のリーダーボードが手動なのも、マスターズが今でもデジタルリーダーボードに変えていないからだ、と言われている。ただ、メモリアルでは14番グリーンの横にだけ巨大なLEDスクリーンを採用している。表示デザインは周りの深緑と一体化させて目立たないようにしていると思われる。スクリーンがあることに気づかない人もいるくらいだ。
一方で、放送や報道の現場はどんどん最新技術を取り入れている。日本向けに中継するU-NEXTのクルーが撮影した映像は「Live U」というサービスを使い、携帯電話やスターリンクの回線で送信している。かつてはパラボラアンテナを使う衛星回線しかなく、1週間に1000万円を超える利用料を支払うしかなかった。現在は通信経費が20分の1以下になっているというから大きな変化だ。
ただ、同週に行われたUSGA主催の「全米女子オープン」では、放送局はUSGAが用意した専用の中継施設を利用しなければならないという規定があり、1週間で「高級車1台分」の利用料を支払わないといけなかったそうだ。
米中継局のテレビカメラも様変わりしている。以前は、選手を追うテレビカメラにアンテナを持つスタッフが付く「1台2人体制」が当たり前だったが、通信技術の向上により、カメラに装着されたアンテナだけで会場内の受信アンテナに映像を送信できるようになり、アンテナ担当者はいなくなった。
スチール写真を撮影するわたしたちも、デジタルカメラから携帯電話回線を使ってすぐに写真を送信できるようになっているので、松山英樹選手の写真が撮影した数分後には日本で記事に使われることが当たり前になった。もちろん、SNSなどは言うに及ばず、トラックマンの弾道表示やスコアデータ分析など、さまざまな最新技術が試合の中継や報道に用いられている。
伝統を大切にするメモリアルトーナメントも、最新技術は否定せずに取り入れる。ゴルフコースやクラブハウスも必要に応じて改修されて、現代ゴルフに適応する。一方で、ゴルフ界に貢献した選手や関係者をたたえる式典を行っているのは、伝統を重んじるニクラスの考えが反映されている証しだ。
筆者は25年以上このトーナメントを取材しているが、もう一つ、取材開始当初から全く変わっていないことがある。メディアセンターの男子トイレには個室が3つあるが、入り口に最も近い個室のドアの鍵が25年間壊れたままなのだ。これまで数知れぬ人たちが利用してきたが、未だに修繕されず鍵はかからない。これも“伝統”と言えるのだろうか…。(JJ田辺カメラマン)