“守る気ゼロ”の20mバーディ締め J.J.スポーンは前半「40」から鮮やかゴルファー世界一
◇メジャー第3戦◇全米オープン 最終日(15日)◇オークモントCC(ペンシルベニア州)◇7372yd(パー70)
J.J.スポーンはリーダーボードを見ていなかった。20mのバーディパットを残した最終18番。なんとなくギャラリーの雰囲気から2パットでも勝てるだろうと感じていたが、確かな情報をシャットアウトすることで集中力を研ぎ澄ませた。「ディフェンシブなプレーをしたくなかった。守りに入って3パットとか、そういうバカなことはしたくなかったんだ」
同組のビクトル・ホブラン(ノルウェー)が先に同じようなラインを見せてくれたことも背中を押した。「僕のラインから1フィート(約30㎝)左。ビクトルのおかげでスピードもつかめたし、いい読みができた」。水を含んだポアナ芝のグリーンを力強く転がったボールがカップへ飛び込む劇的なバーディフィニッシュ。パターは宙を舞い、キャディと抱き合って涙があふれた。
前半のドタバタぶりを考えれば、誰がこの結末を予想できたことか。1打差2位から出て6ホールで5つもスコアを落とす最悪の滑り出し。2番では「完ぺきに打てた」と振り返るサンドウェッジのセカンドがピンに当たって跳ね返り、猛烈なスピードで数十ヤードも花道を転がり落ちるボールに表情が強張った。まさかのハーフ「40」。2003年以降のPGAツアーで、最終日の前半に40以上をたたいて優勝した初めての選手になった。
悪天候による1時間36分の中断を挟んでから4バーディ(1ボギー)と息を吹き返した。ちょうど1年前の6月、けがや健康問題から引退がよぎったことを思えば、中断のタイミングで気持ちを切り替え、逆境で心を奮い立たせることの方が簡単かもしれない。当時は予選落ちが重なってツアーカードも危うい状況で、ベストを尽くしても通用しないと冷静にマイナスなことを考えてしまう自分がいた。
それが今季は1月「ソニーオープン」で最終日を首位で迎え、3月には「コグニザントクラシック」と「ザ・プレーヤーズ選手権」で2位となった。プレーヤーズではロリー・マキロイ(北アイルランド)と翌日に持ち越した3ホールのプレーオフも戦った。「決してあきらめないという、本当にいい経験になった」。惜敗を糧とすることで、3年ぶりの優勝へ歩みを進めてきた。
今大会と同じ全米ゴルフ協会(USGA)主催のジュニア大会に初出場したのは「16歳か17歳の時」と比較的遅い。そこでプロゴルファーとしての将来を思い描くようになり、下部ツアーからはい上がってきた日々を含めたすべてがこのビッグタイトルにつながっている。「この瞬間を忘れることはないと思う」。妻と2人の娘とともに、父の日に手にした“ゴルファー世界一”の称号の重みをかみ締めた。(ペンシルベニア州オークモント/亀山泰宏)