ミラクルチップインに「笑ってる場合じゃない」 謙虚なヘンリーが不屈の逆転劇
◇米国男子◇アーノルド・パーマー招待 presented by マスターカード 最終日(9日)◇ベイヒルクラブ&ロッジ(フロリダ州)◇7466yd(パー72)
後半16番、グリーン右ラフからのラッセル・ヘンリーのアプローチは高速のフックラインを走って勢いよくピンに当たり、カップへ消えた。ずっと捉えきれずにいた首位コリン・モリカワとの1打差をひっくり返すチップインイーグル。ミラクルな一打にも、主役は静かにキャディとタッチをかわしてボールを拾いあげた。
白い歯すらこぼさなかった理由を「次のホールで池に入れて、18番でまた池に入れたら、ここ(会見場)に座るどころじゃない。本当にタフなゴルフが待っている。だから、笑ってる場合じゃないと思ったんだ。次のショットで何をすべきかに集中する時間だと感じた」と明かす。17番(パー3)は1.7mのパーパットをドキドキしながら沈め、ウイニングパットも1m弱と気の抜けない距離。「勝ちたいなら、決めなきゃいけない」。最後まで必死だった。
前半に2つあるパー5でいずれもボギー。スタート時の1打差を一時は4打まで広げられた。チャンスが消えかけても諦めなかった。「3、4年前だったら、勝てると思えたかどうか。でも、ここ2年は4年前よりも確実に自信がある」。硬く引き締まったグリーンが手強いベイヒルでも、昨年8度目の出場で初のトップ10となる4位。“自称”ローボールヒッターは、自らのプレーがここで通用する手応えを得ていた。
さらにひとつのきっかけになったのは、昨年初めて米国選抜として出場したプレジデンツカップ。この日ぶつかったモリカワや世界ランキング1位のスコッティ・シェフラー、ザンダー・シャウフェレらとの共闘は刺激的だった。ヘンリーにとっては、これまで動画を見たり、練習を観察してそれぞれのいい部分を研究するなど、年下ながら憧れてきたスタープレーヤーたち。「彼らの“チーム”に入ることで自信が持てた。アドバイスを求めた時も親切で、ちょっとした家族のような、クールな存在だよ」と感謝を口にする。
3シーズンぶりのタイトルを昇格大会のエリートフィールドで飾り、世界ランクは7位に浮上した。初のトップ10入りに「実感がないよ。PGAツアーで勝つのは難しい。僕はただ、このゲームと素晴らしい選手たちをリスペクトしているんだ」。優勝者に贈られるアーノルド・パーマーが愛用した赤いカーディガンを羽織り、愛娘を抱いたまま登場した会見場でようやく笑みがこぼれた。(フロリダ州オーランド/亀山泰宏)