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“素人”でもスイング談義 母は明るく強い人/西村優菜 2023年末インタビュー(後編)

今季米女子ツアーに挑んだ西村優菜は、限定的な出場資格からポイントを積み上げ、優勝争いを経験するなどルーキーイヤーを堂々と戦い抜いた。来季シード権を確保し、60人のみが舞台に立てる最終戦にも進出。順調に映るステップアップの裏で、抱えていた苦悩に単独インタビューで迫った。後編は米国でそばで支え続けてくれた母への感謝を語る。(聞き手・構成/石井操)

米ツアー撤退の相談に…母のひと言

その明るさに救われたのは、何度目だっただろうか。ままならないゴルフと慣れない環境。シーズン後半に差し掛かる欧州での連戦で心身ともに打ちのめされ、米ツアーからの撤退もよぎっていた時、母・枝里子さんは変わらぬトーンで言った。「とりあえず1年やってみて、終わった時の順位にもよるから、その時に考えたらいいんじゃない?」

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否定でも肯定でもない、優しく背中を押すスタンスだから、すんなりと受け止められたのかもしれない。「無理かなと思う自分と、諦めるのはもったいないなと思う自分と両方いた感じでした。(迷っていたから)母の言葉に『まあ、それもそうだな』って思えた。そのまま、時に身を任せることにした」

「なんか、友達みたいな感じなんです。もちろん、リスペクトしている部分はたくさんあって。でも、友達みたいに話せるので、今年はつらい時も私がバーッと(自分の気持ちを)言って、母は聞き役に回ってくれていました」

スマホを2台並べて「何が違う?」

枝里子さんはゴルフをしない。しかし、娘のスイング談義にもとことん付き合ってくれた。

「(優勝した2021年) サロンパスカップの時のスイングが好きなので、ホテルに帰ったら私の携帯はサロンパス、母の携帯は現在のスイング動画を流して見比べながら、2人で『何が違うんだろうね?』って。今では母の携帯も私のスイング動画でいっぱい。『コーチになれるかもしらん』って言ってましたよ(笑)」

「母は“素人”なんですけど、いつもそばで私のゴルフを見てくれているので、私の方から違いを聞いたりします。技術的な部分は分からないと思うんですけど、『いつもよりちょっとトップが大きいよ』とか、『いつもより足がクロスだよ』とか言ってくれる。意外と自分で気付けない部分だったりもするので、外からの意見は大事にしています」

母のうれしそうな顔に「幸せ」

プロになるまでの道のりも、母はもちろん、両親の支えなくしてあり得なかったという。アマチュア時代は2017、18年と日本ゴルフ協会(JGA)のナショナルチームでプレー。海外派遣競技の遠征費を負担してくれるエリート集団に入るまでの幼少期について「裕福ではなかったので、ホントに狭いところに住んでいたし、我慢していた部分もたくさんあった」と明かす。

「でも、苦労してきた部分はたぶん親の方がたくさんある。父と母は共働きで、夜に仕事を掛け持ちしていた時もありました。高校でナショナルチームに入るまでは特に大変だったと思います。私がプロになるタイミングまで、母は働いていましたから」

父・武彦さん、4歳上の姉・未夢さん、9歳下の弟・陽翔さんを含めた5人家族。「たぶん、母が一番タフ。自分の自由もなかっただろうし、すっごく苦労はしたと思うけど、基本“ポジティブ人間”で、それを言わないんです。『苦とは思わなかった』って。だから、最近になって『良い化粧品が買える』とかうれしそうな顔を見ると、すごく幸せだなって思います」

助けられたポジティブ思考

「ここまでショットが悪い経験をしたことがなかった」。今季、特定のコーチをつけていない西村は自問自答し、考え込む時間が増えた。

「自分がネガティブになった時も母はポジティブにいてくれて、それに引っ張られて、助けられた部分はあります。結構、サッパリしてるんですよね。何個か言葉をかけたら(強制的に)『終わり!』って。『考えすぎるとネガティブになっちゃうから…』と言うんですけど、たしかに(自分には)それが一番良かったりする」

「『買ってあげた』という感じでもないですけど…」と照れくさそうに笑うが、昨年購入した新居にこれまでの感謝が詰まっている。「私がもう少し良いところに住みたいなと思っていた。みんなが過ごしやすくなってハッピーなら、それがいいなって。プロに転向した頃は優勝して(副賞の)車を獲ったら、車好きの父が喜ぶだろうなと思ったりもしました。恩返しできているかは分からないけど、おウチはちょっと広くなって、便利になりましたね」

米参戦2年目に掲げる目標

ちょうど1年前、Qシリーズ(最終予選会)で目標の20位以内に届かず涙を流した後、2週間ほどクラブを握らなかった。米ツアーで戦うか否か、冷静になって考えるために。「あのときに時間を費やして良かった。その時の気持ち(だけ)で諦めなくて良かったし、じっくりと自分の中で人生プランを相談して考えられた。やっぱり、いろんなことを感じながら進むことは大事。それがすごく収穫だった」

覚悟を決めて飛び込んでからも、苦労の連続だった。「日本の2年分くらい疲れました」と表現した濃密な1年。「はたから見ると、すごく順調そうに見えるかもしれない。でも、自分の中では結構、頭を使った。時間が長く感じられました」。大変でも、考えることはやめない。傍らには、前向きに引っ張ってくれる母もいる。

「来年も試合をしていくうちに“波”はある。迷った時に修正の選択肢みたいなものがあれば心強い。あとは緊張した場面でしっかり自分の重心を落としたスイングができるように。いろいろ感じながらやらないと気付けないところだと思うので、しっかり感じながら練習していきたい」

最後に、米ツアーで戦うことへの自信について聞いた。「少しずつですね。まだまだすごく差はあるなって感じますし、優勝争いをした時にもっといいプレーをしたいなって思う。そういうアグレシッブさが、もうちょっと自分には必要。まだまだ、頑張らなきゃいけない」。表情を引き締めた後、はっきりと目標を口にした。「やっぱり優勝。今年シードをクリアして、次のステップに行きたい。2024年は、優勝を目指します」

取材協力/東京マリオットホテル

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