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プロ11年目の広田、ツアー初優勝!支えてくれた家族に最高の「父の日」プレゼント/マンダムルシードよみうりオープン

2005/06/20 12:00

それまで強張っていた広田の顔に、たちまち柔らかな笑みが広がった。1打差2位で迎えた9番パー5。打ち上げになったグリーン奥に、1年5ヶ月になる長女・璃香(りか)ちゃんの笑顔を見つけたからだ。

その口元が、小さく「パパ」と動いたとき、張り詰めていた心がたちまち解れていった。「僕にとって、子供は癒し。誰よりも、リラックスさせてくれる存在」。愛娘の前で、奥から3メートルのバーディパットをねじ込んで、川岸、平塚、秋葉、高山らと首位に並んだ。

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3打差の5位につけた前日3日目の夜。妻・美保子さんに電話して、「明日は会場に来てよ」と、頼んだ。普段は「ペースが狂うから」と、家族を遠征先に呼ぶことは滅多にないが、今週はどこか予感めいたものがあった。

今年32歳。「そろそろ、ここらで優勝がほしい」と、強い決意で迎えた今シーズン。仲間内で、「ミスター・よみうり」と呼ばれるほど好相性のよみうりカントリークラブで、今年も3日間、好位置につけて「勝つならここしかない」という思いが強くあったからだ。

初優勝はぜひ、家族の前であげたいと思った。しかし、美保子さんの返事は素っ気なかった。「でも、明日は最終組じゃないんでしょう?行かないわ」。拍子抜けしていったん電話を切ったが、すぐまた折り返しかけてきて美保子さんが言った。

「応援に行ったら優勝してくれる?」

「え…?」

「してくれるなら行くよ」

「じゃあ、優勝するよ」

強引に約束を交わした美保子さんは、最終日の早朝に山口県宇部市の自宅を出て、ちょうど夫のハーフターンに間に合った。それからあとの9ホール。「これまで見てきた中で、一番素敵でした…」と、美保子さんは惚れ惚れと振り返った。

一時は5人が並ぶ混戦模様を抜け出して、1打差の単独首位で迎えた18番パー5。残り235ヤードの第2打で、広田は迷わずスプーンを手にしていた。すでに16番ホールから、経験したこともない激しいプレッシャーに襲われていたが、それでも絶対に逃げたくなかった。守って負けたら、あとで絶対に後悔する。「刻んでパーで終わるより、たとえ失敗しても最後まで攻めよう。手前の池に入れるくらいなら、いっそ奥だ」と、腹をくくった。「そこからならバーディか、イーグルもありえる」と、ピンに向かって振りぬいたショットはグリーン奥のラフ。

3打目に向かう途中、大きなスコアボードに目が行った。川岸が16番でバーディを奪い、首位で並んでいるのがわかった。ますます心臓は高鳴って、続くピンまで15ヤードのアプローチは「どうやって打ったか覚えていない」という。

1メートルにピタリと寄せたバーディパットは手が震え、パターヘッドがブルブルと揺れていた。打つ前に、一瞬、目を閉じて深呼吸したが、震えはやまなかった。それでも「プレーオフは絶対にいやだ」と夢中で手を動かして、ボールをカップにねじ込んだ瞬間、思わず目を閉じて天を仰いだ。「やるべきことはやった」という充実感が、身体中を満たした。

最終組のプレーは、グリーンサイトで家族揃って見守った。結局、17番でボギーを打って2打差に後退した川岸と、同じく2位につける平塚が広田に追いつくには、最終ホールのチップインイーグルしかない。2人のアプローチを見届けた瞬間、夫婦はそっと体を寄せ合った。涙をこらえ、肩を抱き合った。

1995年にプロデビュー。しかし、それからの約5年間というもの、ツアーの出場権も得られず、ろくに稼げない日々が続いた。美保子さんに養ってもらった時期もあり、璃香ちゃんが生まれてからは、「いつ、また稼げなくなるかもわからない。この子を飢え死にさせるわけにはいかない」と、大黒柱として歯を食いしばってきた。

「苦労をかけた家族の前で勝てたことが一番嬉しい」。よちよち歩きで駆け寄ってきた璃香ちゃんを抱き上げて、ウィニングボールをそっと手渡した。

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