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「LIV招待」は隠れ蓑か? サウジがゴルフに手を出す〝危険〟な事情

米国の著名な外交コラムニスト、トーマス・フリードマン(Thomas Loren Friedman)は専門地域を中東・湾岸とし、大のゴルフ好きでも知られる。湾岸を意味する英語は「gulf」で、ゴルフは「golf」。両方の発音は似ているので、フリードマンは彼一流のユーモアとして「私の趣味はゴルフです」と胸を張るらしい。

そのフリードマンが米紙ニューヨーク・タイムズ(6月14日)に「Saudi Arabia should take a mulligan on golf. Here’s what it can do instead 」(サウジアラビアはマリガンをすべきだ。代わりにできることがある)というコラムを掲載した。

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ゴルフ好きなら「mulligan」(マリガン)という言葉を一度は耳にしたことがあるかもしれない。朝一番のティショットをミスした場合、その1打目を「なかったこと」にできるという非公式のルールのことだ。マリガンの起源にはここで触れないが、フリードマンはつまり「サウジが『LIVゴルフ』を支援するのはミスショットなので、別のやるべきことをせよ(=別の球を打ち直せ)」と主張しているのである。

「LIVゴルフ」とは2021年に新しく設立されたゴルフツアー組織で、今年6月に英ロンドン近郊で初戦が行われた「LIV招待」シリーズを運営。同月30日からは米オレゴン州で第2戦を開催する。

サウジの政府系投資ファンドによる超高額賞金が提供されることから、元世界ランキング1位のダスティン・ジョンソン、メジャー大会最年長優勝記録を持つフィル・ミケルソンらスター選手が米PGAツアーとの“絶縁”を覚悟してまで参戦したことが波紋を呼んでいる。

◆スポーツウオッシング

それにしても、全土の大部分が砂漠のサウジアラビアでゴルフが盛んとは聞いたことがない。なのにサウジ当局は、どうしてこうも巨額の現金(開幕戦の賞金総額は2500万ドル=約34億円)を投入するのだろうか。

米メディアは一連の動きを一般的に「sportswashing」(スポーツウオッシング)の試みと受け止めている。この単語は比較的新しいもので、国家や団体、人物がスポーツを利用して自らのイメージを高めたり、不都合な真実から目を背けさせようとすることを意味する。

だとすれば、アラブの盟主を自他ともに認めるサウジは何を「イメチェン」しようとしているのか。背景を探っていくと、同国の最近の動向に対する欧米諸国の厳しい視線が浮かび上がってくる。

◆イスラム教総本山の産油国

アラビア半島に位置するサウジの国土面積は220万6714平方キロ(日本の約6倍)で、人口約3480万人。世界有数の産油国で、聖地メッカがあるイスラム教の総本山としてもおなじみだ。

米国はサウジ建国の翌1933年に国交を結んでいる。米企業の石油利権獲得などが当初の狙いだったが、その後、東西冷戦を通じて両国関係の戦略的な重要性は高まっていった。サウジも独立後、欧州の植民地主義をけん制するために米国へ接近。70年代以降のイランのイスラム革命、旧ソ連のアフガニスタン侵攻など地域の危機に直面し、米国が安全保障上、不可欠な存在となった。

サウジ国内には米軍基地が存在しており、両国は事実上の同盟関係(正式な締結はない)にあると見られている。ところが、そんなサウジについて、米国人の多くはあまり良い感情を抱いていない。

◆地に落ちた評判

一番の大きな要因は、言わずと知れた2001年9月11日の米同時多発テロ事件(日本人24人を含む2977人が死亡)だ。実行犯19人のうち15人がサウジ出身で、事件を主導した国際テロ組織アルカイダの首領オサマ・ビンラディンもサウジ生まれだった。

それだけではない。サウジでは2018年まで、イスラムの厳格な戒律に従って女性が自動車を運転することを法律で禁止していた。スタジアムでのスポーツ観戦も許されなかった。

加えて、同国の負のイメージを決定的にしたのは、同年に発覚したサウジ人ジャーナリストのジャマル・アフマド・カショギ氏の殺害事件である。サウジ国内の改革派として内外から期待されていたムハンマド・ビン・サルマン皇太子が殺害を承認したことが明らかとなって、世界中が仰天した。

バイデン米大統領は2020年の大統領選に先立ち、「サウジには武器を含めて一切の支援をやめる。(前近代的な)サウジには社会的な価値観がほとんどない」と痛烈に批判。さらに近年、「脱炭素」への機運はグローバルなレベルで高まっており、産油国として君臨してきたサウジの立場は危うくなっていた。

◆外交的「手打ち」なら?

さて、話をLIVゴルフに戻そう。サウジが「スポーツと娯楽のメッカ」(フリードマン)を目指そうとするのは、国際社会に拡大している同国のネガティブなイメージを払拭するためだろう。そこで世界的にプレーヤー人口が増えているゴルフに目を付けた。

フリードマンは、サウジが名誉挽回するためには「ゴルフではなく、社会や宗教教育、労働市場などの改革を推し進めるべきだ」と提言している。もっともなことである。

しかしここにきて、サウジに有利な風が吹き始めている。今年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻で原油価格が高騰し、産油国サウジの役割に再び期待が高まっているのだ。バイデン大統領は7月半ばにサウジを訪問し、ムハンマド皇太子と会談して原油増産協力を求めるとみられる。

米国とサウジの「手打ち」が実現するとなれば、ことによるとLIV招待シリーズはますます盛況になる可能性がある。(寄稿=時事通信ワシントン支局長・水本達也)

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