大山亜由美さん死去 香妻琴乃は大粒の涙
華々しさとひたむきさと…大山亜由美さんのかなわなかった夢
彼女が世間で注目されたのは2016年1月、大手芸能プロダクション「オスカープロモーション」との契約会見だ。同じ事務所の先輩モデルらが登壇し、現役のプロゴルファーとしては異例ということで話題となった。
端正な顔立ちと整ったスタイルで注目を集め、華々しくデビューを飾った大山亜由美さん。「ステップアップツアー(女子下部ツアー)で3勝を目標に頑張りたい」と語ったが、どこか気恥ずかしそうな、申し訳なさそうな笑みを浮かべている表情が印象的だった。
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父・文明さんと練習場に行ったことがきっかけで8歳から始めたゴルフ。当初からボールに当てることができたという少女はその後、遠くへ飛ばす喜びに目覚めた。ゴルフの強豪校として知られる地元の鹿児島・樟南高に進んだ。
県代表として国体に出場。ただ、全国レベルで大きく名前が挙がるほどではなかった。4度の挑戦を経て、2015年のプロテストに合格した。
プロとしての実力もまだまだ発展途上。苦労するのも努力していくのもまさにこれからというとき、2017年に女子プロ・ゴルフレスキューの取材を快諾してくれた。
はじめて会った大山さんの印象は、見た目の雰囲気とは違った。サッパリとした性格。取材中「次、何すればいいですか?」「写真はどうするんですか?」と、サバサバした物言いにも少し驚かされたが、当時23歳の若きアスリートとして実直でさわやかだった。
若い選手は取材というと、恥ずかしさもあり、言葉に詰まるタイプが多い。だが、彼女はもともとが素朴でストイック。しっかりと自己主張もする。その姿は若い女子プロではなく、ベテランの男子プロと話している錯覚を起こしてしまうほど。いわゆる「九州男児」の姿を感じさせるものだった。
「朝から晩まで練習場でボールを打っています」。取材では、練習場で普段行っているトレーニング法を聞いた。太ももにゴムバンドを巻いて下半身の動きを止めたり、パッティング時のヘッドアップを抑えるために壁に頭をつけるなど、かなりこだわりの詰まった内容。試行錯誤して編み出した練習メニューに、スタッフ一同はうなずくしかなかった。
また、早稲田大の通信教育を受けるなど勉強にも前向きだった。カリキュラムの内容を楽しそうに話しながら、ツアープロとして大人の世界でも通じる常識を学びたい、海外での生活のために英語を学びたいと貪欲な姿勢を見せていた。
そんな彼女の目標は、2020年の東京五輪出場。レギュラーツアーで活躍し、世界に挑戦したいと意気込んでいた。2019年5月16日、がんのため25歳の若さで亡くなり、その夢はかなわなかった。「いま、何がやりたい?」と聞いても、きっと彼女は「オリンピック(の出場)に決まってるじゃないですか」と不器用な言葉で返してくるだろう。真っすぐな瞳をこちらに向けながら。(編集部・U)