「HONMA」ブランドを変えた笑顔 “チーム イ・ボミ”の証言(2)
優勝請負人も「ゲーム感覚」だった全盛期 “チーム イ・ボミ”の証言(1)
日本女子ツアーで2015年から2年連続賞金女王に輝いたイ・ボミ(韓国)が今季限りで現役を引退する。長らく日韓のファンを魅了してきた“スマイルキャンディ”を支えた「チーム イ・ボミ」のスタッフへのインタビュー連載。第1回は約6年にわたって専属キャディとしてバッグを担ぎ、プレーを支えてきた清水重憲氏(以下、敬称略)が触れたボミの強さを振り返る。
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リスクマネジメントのうまさ
初めて賞金女王を戴冠した2015年、ボミの快進撃は4試合連続2位という今も破られていない記録を経て、5月「ほけんの窓口レディース」連覇によるシーズン初勝利で加速した。6月「アース・モンダミンカップ」で日本通算10勝目。当時の史上最速で年間獲得賞金1億円を突破した。数多くの選手の“優勝請負人”を担ってきた清水だが、「ボミと組んだ時は“勝てるかも”と思ったら勝てた。でも、“勝てないかも”と思っても勝った」と振り返る。
同年8月、女子ツアーとして初めて北海道・小樽CCで開催された「ニトリレディス」。初日から首位をキープしたボミは最終日、後続に1打リードでティオフした。しかし、前半に逆転され、ハーフターン時に同組の渡邉彩香と2打差。12番(パー3)をボギーにして差は3打に広がった。「9ホールで3打差ならば追いつけるかもという目安はあったけれど、残りは6ホール。逆転はちょっと厳しいかなと内心思っていた」。そう感じた矢先、反撃が始まった。
パー5の13番、2オン2パットでバーディを奪取。14番もバーディにして1打差に縮め、15番で「4、5mとかそんな近いものではなかった」というバーディパットを決めて勝利につなげた。
選手によっては「ゾーンに入った」、「ガンガンに攻めて」というような勢いで相手を圧倒するスタイルもあるが、ボミの場合は「強気でガンガンに、ではない。どちらかというと若干ビビりながら。優勝争いの中でも冷静に、リスクマネジメントをしながら勝った印象が強い」という。14年から17年の3シーズンで一度も予選落ち(2試合で棄権)をしなかったのも、そんな性格が大きかったのかもしれないと分析する。
翌16年は5勝して2年連続で賞金女王に君臨したボミは、決まったルーティンをこなしてきた。3日間大会が多かった当時は、月曜をリフレッシュ日にして火曜は打ち込み練習だけ。水曜の午前中にトレーニング、ショット練習をしてから午後にコースを回った。
午後にコースに出るのはこだわり。「“練習ラウンドは最終日と一緒”という気持ちでやっていた。試合では飛距離が出るが、風の感じ方や西日の太陽の見え方は一緒」。最終日最終組で回るバックナインのプレーは昼過ぎから夕方にかけての時間帯になる。常に優勝争いするための準備に余念がなかった。「自分のいい癖、悪い癖が分かっていた。もちろんコーチにも定期的に韓国から来てもらって調整していたけど、その調整力はうまかった」
繊細な感性と“自分を許す”心
清水曰く、ボミは普段と別の担当者がクラブのグリップ交換を行うと、それがすぐに分かるほど繊細な、あるいは神経質な感性を持っているという。全盛期のショット力はすさまじく、「コンピューターゲームをしているような感覚。もちろん、人なのでミスはあったけど、狙った方向に外さない」。勝負はパッティング次第、という試合がほとんどだった。「神経質は神経質だけど、うまく自分をコントロールしていた。ある程度、試合中は思った球でなくても“自分を許す”心を持っていたのがうまくいったんじゃないかな」
その反面、ショットの不振に陥って1勝にとどまった17年は、慎重な姿勢と精神面が技術とかみ合わなくなったのかもしれない。のしかかる重圧に、清水自身も「(タッグも)終わりになるのかな、どうなるのかなって」と思っていた。18年に一時離別が決定。「終わった時は一瞬、頭が“真っ白に”なった」
専属“契約”を解消されてから、女子ツアーでは古江彩佳の勝利に貢献するなど清水は若手選手のバッグも多く担いできた。
「佐藤心結選手を担いだ時に『ジュニア時代、誰を見てプロになった?』って聞いたら、ボミでした。宮里藍選手を見て『ああなりたい』と思った、いわゆる“藍キッズ”もいると思うけど、今、20歳ぐらいの選手の憧れはボミなのかな」。幼い頃に夢を掲げ、将来の自分を重ねた選手の影響は計り知れない。「ボミは私生活も相当犠牲にしていたところもあったと思うので、まねをしろとは思わない。けれど、それぐらいやらないとトップになれないのかもしれないという話はする」
女子ゴルフをけん引したボミの引退発表を聞き、「寂しいですね」と話す。「プロゴルフって『引退する』と言わなくても(引き際は)成立するけれど、地方から来てくれるファンらは予定が組めないまま、見ないで終わってしまう。前もって発表するのはやっぱりファンを大事にしているからですよね」
初戦の「ダイキンオーキッドレディス」、第4戦「アクサレディス」に出場するなどボミの現役生活は今年いっぱい続く。「もちろん、やる以上は上位を。なんなら優勝を目指してほしい。優勝したらどうするのかな、シードを獲ったらどうするのかなとも思ったりもします」と期待した。(編集部・石井操)
■ 清水重憲
1974年、大阪府生まれ。近畿大ゴルフ部に所属し、男子プロの杉本周作との縁がきっかけでプロキャディに転身。98年に田中秀道のキャディを務め、2007年には谷口徹の賞金王、上田桃子の賞金女王戴冠をサポートした。イ・ボミとは13年からタッグを組み、計17勝をサポート。堀川未来夢の初勝利もアシストし、21年「NOBUTA GROUP マスターズGC」での古江彩佳の勝利で、キャディとして通算39勝目をマークした。