「人に見られたくなかった」ショット不振 浅地洋佑が涙の復活
◇国内男子◇中日クラウンズ 最終日(4日)◇名古屋GC和合C(愛知)◇6557yd(パー70)◇晴れ(観衆6320人)
ボギーでも優勝が決まる最終18番、1.5mのパーパットを打つ前から浅地洋佑の目にはこみ上げてくるものがあった。「この3年くらい、ほぼいいことがなかった。それが報われて、イヤな気持ちがなくなると思ったら、勝手に出てきました。普段は泣くとか、全然しないんですけど」。必死だったから、なりふり構わず短いパーパットも寄せに行った。「カッコつけてる場合じゃない。大変お見苦しいゴルフで…」。ボギーフィニッシュで漏れる自虐節も、しっかり勝ち切ったから言える。
2021年「マイナビABCチャンピオンシップ」以来となるツアー通算4勝目。翌22年にはランキング86位に沈んで、賞金シードを落とした。異変は21年の内にあったという。最終戦「日本シリーズJTカップ」を終え、2週間ほど休養を挟んだ練習から明らかにおかしかった。シャンク、ダフり、トップ…。練習場でもまともに打てず、プライベートラウンドで80台をたたいてしまう。22年は「試合にも行きたくなかったです、本当に。行っても練習したくなかった。人に見られたくなくて…」と極限まで追い込まれた。
上向くきっかけは、昨年1月から植村啓太コーチに師事したこと。それまで10年間ほどコーチが不在の状態で3勝をつかんだ天才肌が、理論的に不振の原因を洗い出した。「トップでの右ひじの角度が深すぎる…というところから始まりました」。練習時、腕が上がり過ぎないようにと装着している器具は今も使っている。地道な積み上げがシード返り咲き、そして今回のタイトルにつながった。
この日は1番で目玉になったガードバンカーからの寄せが同組の小西たかのりのボールに当たって止まり、何とかボギー。「当たってなかったら、(グリーンを出て)ダボは確実。今度、小西さんにご飯をおごらなきゃ」と笑ったが、もちろんラッキーだけでは勝てない。方向のジャッジも悩ましい強風が吹く和合を制した最終日のプレーは、苦しむ中で浅地らしさが詰まった「69」でもある。
3バーディのうち6番、10番と2度のチップイン。特にグリーン奥からの10番は「完全に狙って入れました」という会心の一打。単独首位に立っていた同じ最終組の岡田晃平に並んでプレッシャーをかけた。2打目を大きく左に曲げて「OB」を覚悟した15番(パー5)もバンカーからセーブ。「周りの方のおかげで戻ってこられた」と感謝する31歳が、低迷期でも「唯一維持できた」と控えめに胸を張るアプローチ。最大の武器は、勝負どころでも裏切らなかった。(愛知県東郷町/亀山泰宏)