どれくらい飛ぶ? 2022年国内男子ツアー平均飛距離ランキング
「舞い上がってコテンパンにされた」/河本力 2022年末インタビュー
このオフで、どれだけ自分を追い込めるか――。QTランキング74位からシード獲得を目指した今季は、8月「Sansan KBCオーガスタ」と9月「バンテリン東海クラシック」で2勝。十分すぎるルーキーイヤーを終えた河本力にはそれでも、焦りがあった。「優勝するってすごい。すごいことだけど、運もあったと思うんです。少しでも何か状況が変わっていたら、勝つのは厳しかったかもしれない」。願ってやまなかった優勝の瞬間を淡々と振り返った。
■初Vの瞬間「あ、大丈夫」
2021年12月、日体大卒業前に臨んだファイナルQTはレギュラーツアーに出場できる順位には届かなかった。「練習をこれだけやっているのに試合で発揮できない、それは心の問題なんだなって」。練習すれば技術は磨ける。学生時代から、なかなか比例しない精神面での成長にはずっと自信を持てなかった。
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ルーキーイヤーを迎える前、紙に書き出したのはどう成長したいか、何が足りないか。「学生時代は、自分のことを考える時間なんてほとんどなかった。とにかく雑で、全てにおいて幼くて我慢もできなくて。今はコースに入ったら、なるべくテンションを低い状態で一定に保つように。怒るのは絶対ダメ、とにかく冷静に」
自信を得るチャンスは早々にやって来た。推薦枠で出場した今年8月の「Sansan KBCオーガスタ」最終日、通算15アンダーのトップタイで最終ホールを迎えた。決めれば優勝のバーディパットは3m。「カップ3個外すくらいの、めちゃくちゃスライス。あの場面で決められたとき『あ、もうメンタルは大丈夫』って思えた」。 1カ月後の「バンテリン東海クラシック」では、バーディ必須の最終ホールで5mを決め切って2勝目を挙げた。
■打ち砕かれた自信
「多分、舞い上がっていたんです」。確かなものになったはずの自信は、その1カ月後にはあっけなく崩れ去った。
賞金ランク上位の資格で出場を決めた10月の「ZOZOチャンピオンシップ」。念願のPGAツアーデビュー戦は苦い記憶だ。初日からダブルボギーを2つたたき、通算7オーバーで72位。「舞い上がっている自分もいたし、頭の悪さが出た。ティショットが全然チャンスにつけられるところに打てなくて、コテンパンにされたんです。あのフィールドで、あの空気感の中で結果を出せない。ものすごく差を感じて悔しかった」
11月には優勝のチャンスを2度逃した。「マイナビABCチャンピオンシップ」と「三井住友VISA太平洋マスターズ」の2週間で味わった悔しさは、2勝の誇りを上塗りして消してしまうほどだった。マイナビは首位で週末に進みながら決勝で伸ばせず2位。翌週は3日目に「63」のコースレコードをマークして初日82位から8位まで浮上したが、優勝に2打届かなかった。
「チャンスがあるのに勝てない。VISAでは3回もシャンクして…本当はシャンクさせないなんて、プロならできるはずなんです。頑張ろう、飛ばそうという気持ちが前に出て冷静さを欠いてしまった」
「普通にやればできるのに。そう思えるだけの練習や準備をしてきた自信はあります。だからこそ、心って本当に大事なんだなって。ただ、焦ることは全然いいと思っていて。この1年はオフへのモチベーションが得られるような年だった。そういう面では、ちょっとずつだけど学生のときよりは成長できているのかな」
■守っても豪快なゴルフを
シーズン最終戦を迎えるころには、体重は1年前より10kg近く増えていた。かつてプロ野球・埼玉西武ライオンズのトレーナーを務めていた中野達也氏のもとで、このオフもトレーニングを積む予定だ。
「今は96kgくらいかな。これから絞っていくんです。地面をしっかり捕らえられるようになって飛距離は去年よりすごく伸びたし、ゴルフ界では体が大きい方だけど、野球のトップ選手はもっとしっかりしているじゃないですか。アスリートらしい体を作って、将来米ツアーに挑戦する準備を進めていきたい」
2022年の平均飛距離は315.74yd。ツアー1位の武器を最大限に生かす方法は「守りのゴルフ」と考えている。
「守っていても、豪快だなって思われるゴルフはあると思う。むやみやたらに1Wを振ってもダメだけど、自分のショット力を理解した上でマネジメントできれば、守っていてもワンオンは狙える。大学生のときは、そんなの本当に何も考えていなかったな」
自分のパワーを生かすべく、唯一無二のゴルフを作り上げている最中だ。
「ああいう風になりたいって、小さい子から思ってもらえるようになりたい。2勝できたけど、まだ“一流選手”にはなれていない。勝ちたいときに勝ってこその一流選手。勝ちに行くと思って、勝ちたいです」
(聞き手・構成/谷口愛純)