【一歩上の実戦テク】どう打つのが正解? ディボット跡攻略法
2023年 ザ・プレーヤーズ選手権
期間:03/09〜03/12 場所:TPCソーグラス ザ・プレイヤーズ・スタジアムコース(フロリダ州)
池の水、ぜんぶは抜かない17番パー3 キーパーの苦労と沈んだ球の行方
2023/03/13 17:27
◇米国男子◇ザ・プレーヤーズ選手権 最終日(12日)◇TPCソーグラス ザ・プレーヤーズ・スタジアムコース(フロリダ州)◇7275yd(パー72)
TPCソーグラスが誇るアイランドグリーンが生まれたのは偶然か、それとも必然だったのか。話は40年以上前にさかのぼる。稀代のコース設計家のひとりとして知られたピート・ダイが当時のPGAツアーのコミッショナー、ディーン・ビーマンの命を受けてデザインしたスタジアムコース。17番(パー3)が実際につくられたのは設計プロセスの後期だった。
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今ある17番の周辺は、もともとは他のホールを作るための土の掘り起こす場所だった。時間が経つにつれ、「これではずいぶん大きな穴ができてしまう…」と頭を悩ませていたダイに助け舟を出したのが、設計のパートナーでもあったアリス夫人。「それならば、水を入れて周りが池のグリーンにしましょう」。ゴルファーを恐怖に陥れるパー3がかくしてできた。
「ここはもともと低地の湿地帯で、ジャングルのような場所。彼らはゴルフコースに適した良い土を、その都度探しながらコースを作っていきました」と話すのはTPCソーグラスの現在のスーパーインテンデント(グリーンキーパー)、ジェフ・プロッツさん。「アリスも相当な腕前のゴルファーでしたが、当時では誰も聞いたことがなかったアイデア。それが今やコースの象徴になりました」
奇想天外な発想が生んだアイランドグリーンは、管理するにあたっていくつか他のグリーンとは違う点があるという。グリーンに続く通路はティから見て左奥にしかなく、必然的に足跡が多くできる。大会期間中のスタンドをのぞけば、年中、周りを遮るものがない。影もできず、直射日光にも雨風にもさらされ、コンディションが天候に大きく左右される。
「それでも、一番のチャレンジはやはりここが、誰もがプレーしたがるシグニチャーホールであること。プレーした誰もがここで写真を撮りたいのです」。いわゆる“花道”がないことから、グリーンオンさせるためにはノーバウンドでグリーンをキャッチする必要がある。芝の上にはその度に打球痕ができる。美しさを維持するための日々の努力が欠かせない。
メンテナンス作業にはもちろん、他のグリーンよりも注意が必要。普段は100人、試合期間中は外国からのスタッフも含めさらに100人のスタッフを抱えるプロッツさんにとっては、作業中に誤って池に落ちる事故がないかが心配だ(実際に落ちたスタッフがいたらしい…)。
ところでこの名物ホールの池の水は、すべてが抜かれることはないそう。16番(パー5)の右サイドにも隣接する広大さもあって、「流れがあるので水はクリーン」と、グリーンを支える枕木などを修復する際に水かさを調整する程度。ただし、大会期間中はゴミや花粉などから美しさを保つため、黒い液を流し込んで水面を“ミラー仕上げ”にしている。
池の底にはいったい、いくつのボールが沈んでいるのだろう。一説には数万とも言われているが、正確には把握されていない。定期的にダイバーが潜って集めたボールは、カフスや時計などのグッズに加工される以外のほとんどは、ロストボールとしてリサイクルされる。PGAツアーが運営する教育プログラム「ファーストティ」などに寄付し、新たなゴルファー育成の循環システムの一部をなしている。
2023年大会は悲鳴とともに4日間で58球が池に消えた。いつかそれを使った少年が “第5のメジャー”の17番ティに立つ日が来るかもしれない。(フロリダ州ポンテベドラビーチ/桂川洋一)
桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw