石川遼は「自分なりの方法で」 松山英樹Vに見た感動と現実
2021年 マスターズ
期間:04/08〜04/11 場所:オーガスタナショナルGC(ジョージア州)
日本人の限界を突破 松山英樹メジャー初制覇の価値
日本人男子初のメジャー制覇を「マスターズ」で成し遂げた松山英樹が、日々どれだけの努力を重ねてきたか。一記者である自分が目撃した姿は、そのほんの一端にしか過ぎないことを知っている。それでも、日が沈むまで練習場で打ち込む姿や、何本ものクラブを試行錯誤する姿、どんな一打も疎かにしない試合での真剣さがすぐ脳裏に浮かぶ。そんな作業を、初めて訪れたオーガスタから10年以上、いや、さかのぼれば子どものころからずっと続けて、ついにここまでたどり着いた。
コロンブスの卵ではないけれど、「マスターズ」制覇なんて夢のような話だと思っていた。コースの難しさだけではなく、グリーンジャケットを着たオーガスタナショナルのメンバーやパトロンたちが醸し出す、人を査定するような独特の雰囲気。取材するたびに、あの舞台で勝つにはゴルフの技術だけでは足りないと感じていた。だけど、そんな重圧を、松山は積み重ねてきた努力を糧に、怯むことなく乗り越えた。
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何の保証もない勝負の世界に身を捧げて、人生のほとんどの時間をゴルフ上達に費やしてきた。その献身にオーガスタの女神もついに好意を寄せたに違いない。サンデーバックナインで起きたいくつかの幸運は、そんなメッセージにも感じられた。
「今までだったらできないんじゃないかってことがあったかもしれないけど、それを覆すことができた」と語る松山の言葉は、彼の背中を追いかけるゴルファーだけでなく、我々のような一般人にも響いてくる。「人が言う努力をしているのかな?っていう気持ちはあります。努力というより、ゴルフが好きでうまくなりたいから」。それでも、ひたむきに取り組めば、たどり着けないゴールはない。実感としてそう思わせてくれたことは、松山が日本に残してくれた大きな財産だと思う。
「全米オープン」2勝のアンディー・ノースは米スポーツ専門局ESPNで、ゴルフ大国・日本を背負ってプレーするプレッシャーとその価値に触れ、「冗談ではなく、ここでの優勝は彼にとって10億ドル(約1100億円)の価値をもたらすだろう」と最終日が始まる前にコメントしている。だが、ゴルフ界だけでなく日本全体に与えるポジティブな効果は、そんな額をはるかに上回るものかもしれない。
15日に2021年初戦が開幕した国内男子ツアーは現在、過渡期を迎えていると言っていい。人気では女子ツアーに圧倒され、将来の展望も明るいとは言い難い。国内ツアーで賞金王になっても「マスターズ」に招待される保証はなく、米ツアーへの道も開けない。だけど、松山も日本ツアーで賞金王となって世界へと巣立っていった。そこで立ち止まらず、己の力で将来を切り開いていくつもりなら、恵まれた通過点とも言えるだろう。
2019年に渋野日向子が「全英女子オープン」を制し、21年には梶谷翼が「オーガスタ女子アマ」、そして松山が「マスターズ」を制覇した。淀んだ空気のような閉塞感はもう見当たらない。1860年に4大メジャー最古の「全英オープン」が始まってから161年目。ついに松山が重い扉をこじ開けた。(編集部・今岡涼太)
今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール
1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka