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15歳で「日本女子オープン」惜敗 長野未祈の遠回りと現在

5年前の秋、畑岡奈紗は高校3年生で国内女子ゴルフ最高峰のタイトル「日本女子オープン」を手に入れた。あの時の試合で、並み居るプロから話題をさらったもうひとりのアマチュアを覚えているだろうか。当時高校1年生だった長野未祈(ながの・みのり)。2000年生まれ、いわゆる“プラチナ世代”に当たる彼女は今、学生ゴルファーとして米国にいる。

3月のPGAツアー「アーノルド・パーマー招待」。ブライソン・デシャンボーが3日目、湖越えの370ydショットを見せたホールに長野はいた。スーパードライブをその手に収めようと、スマートフォンを握りしめて。「一番前で撮ってました。私、小さいから、他のギャラリーさんたちが入れてくれて」。日本人女性の中では決して低くない160㎝台の身長も、いつしかそう感じるようになっているのかもしれない。

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小学3年生のとき、東京都江戸川区の小さな打ちっ放しの練習場でゴルフを始めた。千葉・麗澤中時代に全国中学選手権で団体3連覇。チームメートには同学年に吉田優利、1つ下に西郷真央がいた。「女子オープン」での活躍は麗澤高に進学した2016年秋のことだった。

3日目を終えて単独首位にいたが、「『優勝したい』という強い気持ちはなくて…。上の空みたいな感じでした。万全の状態が整っていたわけでもなく、自信も強いメンタルもなかった」。最終日、「78」をたたいて10位。周囲の関心の大半は畑岡の快挙に移っていった。

それから2年後の2018年、同世代のアマチュア選手たちが我先にとプロツアーでも芽吹く中、長野もまた彼女たちから一歩、先んじようとしていた。高3時に米女子ツアーの予選会に挑戦。山口すず夏とともに1次を突破した後、2次で予期せぬトラブルに見舞われた。

初日のラウンドを終えた夜、ネット上の成績表を見ると自分のスコアが1打違った。「サインする前にチェックしたつもりだったけど…」。翌朝のスタート前に競技委員に申し出て、再確認。スコア誤記による失格処分が下った。「『人生で一番、最悪』って思いました。その年の終わりまで、気持ちは晴れなかった」

苦い記憶が胸を突く。半面、その奥底では「いつか米ツアーでプレーしたい」という夢がふくらんだ。「英語を話せるようになりたいともずっと思っていて。海外はジュニアの大会で来たときも、Qスクールのときも、フレンドリーな雰囲気やウェルカムなところが良いと思っていた」。国内ツアーのプロテスト受験を見送り、高校卒業間近の2019年1月に渡米、進学を決断。その冬は英語の勉強のために塾に通い詰めた。限られた時間、少ない選択肢から、フロリダ州オーランドにある2年制のセミノール州立大への入学にこぎつけた。

語学力をつけるためのホームステイを経て夏場に入学すると、ゴルフ部ではすぐにチームのエースになった。その一方で、生活面は苦労の連続だった。日本人は東北高から来た1歳下の工藤未望と2人だけ。米国、中国、タイなどから来た部員たちと寮で暮らし、英国人のルームメートと言い争いになったこともある。「日本人が気を遣うようなところも、他の国の人は思ったことを言う。文化が違いすぎてビックリしました」

ふと母国のニュースに目をやると、プロ入りしたライバルたちが注目度を一気に高めていた。「ゆな(西村優菜)も優勝、あやか(古江彩佳)ちゃんは4勝もしてすごいなあって。山口すず夏も、環境が違う米ツアーで頑張ってすごいなあって。焦り…よりも、いいな、うらやましいなあって。私も早くプロになりたいなあって。英語が通じそうで通じない、伝えたいことを言えないときはストレスもたまります。泣かないですけどね、人前では…」。20歳。いまだスポンサー企業のロゴが入っていないウェアにはどこか新鮮さが漂う。

「でも、親とそう話すと『人は人、私がこっちに来ると決めたんだから、やれることを精いっぱいやることが大切だ』って気づくんです」。我に返ると、自分から飛び込んだ環境がいかに充実しているかも分かる。近くにある大学の3つの“ホームコース”、トレーニングジムが併設された練習場。「やっぱり、来て良かったなって。『ここならゴルフがうまくなる。練習した分だけきっとうまくなる』と思いました」

米国の大学は部活動だけではなく、勉学の成績も大いに問われる。コロナ禍でのオンライン授業にも必死でついていった。2週に1度のペースで韓国系のスーパーに食材を買いに行き、寮の部屋でご飯を炊く。「ひとりで来て、生活をして。毎日英語を学んで。スイングのことも自分で考えるようになった」と自己責任のプロセスが楽しくもある。

この冬の間に、米国の運転免許を取得し念願のマイカーを手に入れた。ハッチバックにはキャディバッグと折り畳みの手引きカートが積んである。「これで好きなときに練習に行けるようになりました」。年季の入った中古の白いマツダ車。走行距離のメーターは、17万マイル(約27万km)を超えていた。

ここ最近は学生の試合の合間を縫って、州内で行われるミニツアーにひとりで出向いている。米下部シメトラツアーに出場する選手たちとも争った3日間大会で優勝もした。アマチュアのため賞金2500ドルはもらえない。出場のためのエントリーフィ300ドルは“授業料”。「痛いですけど、試合に出たいので」という未来への投資だ。

入学から2年が経つこの春以降、プロ転向を目指すが大学には籍を置くつもり。「全米女子アマ」や「全米女子オープン」の予選会にも挑戦する。ツアーのQT受験は米国か国内か、そのどちらもか…とスケジュールを決めかねている。

「いつかアメリカツアーで、上位で争えるような選手になること」。描いた将来像は渡米前のものよりも太く、強い線になった。「『日本で活躍してからでないと無理』とも言われるけれど、ちょっと違うかなって。コースも環境も違うから、やってみないと分からない。大学だって行ってみないと分からない。他の人が私のやりたいことを決めることもできない」

オーランドは多くのプロゴルファーが拠点を構えること以前に、米国の一大観光地として知られている。長野はまだ、学校から車で数十分ほどのところにあるディズニーワールドを訪れたことがない。「行きたいんですけど…やっぱりなんか、試合が全部終わってからでないと、スイッチが切れちゃうかなって(笑)。パークが4つもあるんですよね。1パークも1日使わないとダメって言うし」

華やかな世界に飛び込むのは、もう少し先。遠回りが必ずしも悪くないことを知っている。(編集部・桂川洋一)

桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール

1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw

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