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シーズン開幕前日の訃報 女子ツアーを支えたあるプロの功績

「達筆すぎて読めないんですけど…」。恐る恐る、コメントシートに書かれた文字を聞きにいった過日の記憶を辿るだけで胸がいっぱいになってしまう。日本女子プロゴルフ協会(LPGA)広報アドバイザーとして国内女子ツアーの隆盛を陰で支えた人物が5日(木)、静かに息を引き取った。諸岡誠彬(もろおか・せいひん)さん、享年70歳。過去最高賞金額となる2015年シーズンを置き土産とするかのように、開幕戦初日の前日に逝った。

本人が問わず語りに語った経歴によると、大手自動車メーカーなど企業の広報代理を経て、1970年代後半から国内女子ツアーを中心にトーナメントのプレスルーム運営を請け負うようになったという。仕事の内容は、担当する試合を少しでも大きくメディアの報道で取り上げてもらうこと。試合への注目度から取材人数を読み、ゴルフ場内に、長机、椅子、電源、通信回線、順位の速報板(リーダーボード)、さらにはコーヒーやお菓子までを用意して、訪れる取材記者やカメラマンに快適な仕事環境を提供するところから、毎週、諸岡さんのトーナメントは始まった。

いくら選手が好プレーをしても、広く世間に伝えてもらえなければプロツアーは成立しない。AONを擁する男子ツアーとは天と地ほどに人気の差をつけられていた時代に、その信念のもと、選手やLPGAにメディアを通じた発信の大切さを説き続けた。昨年秋にゴルフ界初の文化功労者顕彰を受けた樋口久子LPGA相談役が、初めて会長に選任されたときにアドバイスを求められ、「僭越ながら一つだけ。取材はできるだけ断らないでください」と進言したことが、顔を赤らめた酒席で繰り返す自慢話の1つだった。

時には120人以上の選手が分刻みでホールアウトしてくるトーナメントで、選手の記者会見や取材セッティングは、腕の見せどころだ。「神聖な記者会見」と諸岡さんはよく言った。それは、選手がメディアと相対し、メディアの先にいる多くのファンたちと触れ合う場所。ゆえに、会見場に選手の家族やマネージャー、メーカー関係者らが立ち入ることを嫌がった。選手には自分自身の言葉で真摯に語ることを求め、記者たちにはズバリと真相に切り込むような質問を期待した。選手と記者との真剣勝負であぶり出される人間味が、読者の心をつかむと信じていた。

「それでは記者会見を始めます」。太い声でそう宣言すると、諸岡さんは部屋の隅のパイプいすに記者側を向いて座り、さらさらとペンを走らせて一問一答をメモしていく。質問は決してしなかった。会見を終えるときには「よろしいでしょうか?」と必ず記者に確認した。会見が終わると、書きとめたメモをすぐにコピーしてプレスルームで配布した。「会見でどんなことが話されたか記者がすぐ思い出せるように。そして、すぐに記事を書けるように」。パソコンで清書してプリントアウトしていては、記事の書き上がりに間に合わない。そんなプロの仕事ぶりに慣れたころには、「達筆すぎる」と困らされた少し右上がりの文字も解読可能になっていた。字に独特の味があった。

記者会見という定点で女子ツアーを見続けてきた諸岡さんが語ってくれる様々なエピソードは、多くの若手記者たちの選手理解を助けていた。

たとえば、まだ高校生だった宮里藍がある大会で記者会見に呼ばれたとき、諸岡さんを驚かせたことがあったという。ある記者の質問に、宮里が「それはわきまえています」と答えた。随分、難しい言葉を使うものだと思い、会見が終わった宮里に「漢字でどう書くか知っているのか?」と問うた。すると宮里は「ハイ」と言って“弁える”とさらりと書いた。「あの子はすごいぞ」。そんな話は、諸岡さんのお手のものだった。

約40年の長きにわたる諸岡さんの地道な仕事は、LPGAや女子プロの意識を変えたのだと思う。現在の国内女子ツアー隆盛の一翼を担ったと言っても過言ではないだろう。不本意なプレーをした選手が、記者たちを振り切ってそのまま帰る。ホールアウト後に取材しようとしている記者たちを待たせて、延々と練習をする。そんな男子ツアーの日常的光景は、「何をやらせているんだ!」と諸岡さんがすぐに鼻息荒く飛んでくる女子ツアーではあり得ない。

プロゴルファーではなかったが、女子ツアーを支えたプロ中のプロだった。

仕事が終わった後は、よく食事に誘ってもらった。自分の父親よりも年上だったが、常に一記者として尊重されていることを感じていた。「涼太、いいか、酒場はSame(セイム)なんだ。酒を飲んでいるときは、社長も教授も関係ない」。そう言って、ともに飲み、歌い、騒いだ日々はかけがえのない思い出となった。

末期のがんと知り、昨年11月から自宅療養。お見舞いに行くと「思い残すことは何もない」と実に爽やかな顔で笑っていた。生き方そのものが、自分にとってはお手本のような人だった。(編集部/今岡涼太)

今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール

1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka

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