ブルックス・ケプカの激情「負けることは、耐えがたい」
2021年 ウェイストマネジメント フェニックスオープン
期間:02/04〜02/07 場所:TPCスコッツデール(アリゾナ州)
うれしい“ナイスガイ”ケプカの復活V ライバルたちは戦々恐々!?
PGAツアー随一の観客動員を誇るモンスタートーナメント「ウェイストマネジメント フェニックスオープン」。コロナ禍で1日あたり5000人の来場制限をかけての開催でも、試合は激アツでしたね。
PGAツアーの黄金世代となるジョーダン・スピース、ザンダー・シャウフェレ、ジャスティン・トーマスが上位にひしめくリーダーボード。3日目に「61」を出したスピースにはしびれました。魔法がかかったようにパットを決めまくってギャラリーを熱狂の渦に巻き込み、ゲームを支配していく姿は頂点を極めたころとダブります。完全復活を期待せずにはいられません。
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かつての世界ナンバーワンのカムバックといえば、やはり優勝したブルックス・ケプカです。昨シーズンはプレーオフシリーズ進出を逃し、今季に入っても直前の試合までキャリアワーストの3戦連続予選落ち。スイングコーチと袂(たもと)を分かち、1Wやアイアンといったクラブもチェンジと、はた目にも試行錯誤が伝わってくるようでした。
ただ、今大会は一貫してコメントから悲壮感が消えているのが印象的でした。「ケガのせいで100%ゴルフに集中できていなかったけど、やっとできるようになった」「世界ランク1位に返り咲ける自信はなくしていない」。特に深刻だったという左ひざの故障が癒えたことで本人にしかわからない手応えがあったのでしょう。
それをプレーで証明するあたりが真の実力者です。最終日同組でトーナメントを引っ張っていたジェームズ・ハーンが13番、15番と後半2つのパー5で池に打ち込んだスキを逃さず、いずれもイーグルチャンスにつけて難なくバーディ。
勝利を引き寄せた17番のチップインイーグルは圧巻でした。砲台グリーンへ打ち上げ、ピンに向かって下っていく中間距離の難しいアプローチ。「カップしか見ていなかった」と狙い通り、ど真ん中から流し込みました。最終18番のティショットは359ydを計測。縦距離を合わせるのが難しいピン位置の連続だった18ホールを、力と技と攻略してみせました。
2015年大会で初優勝したときのニックネームは「ビッグガイ」。欧州ツアーからPGAツアーに乗り込んできた“逆輸入”選手でした。松山英樹選手のキャディとして最終日最終組で優勝を争いましたが、スタートの1番で松山選手がセカンドを放り込むド派手なイーグルを決めると、大興奮のギャラリー以上に大喜びしていたのがタイトルを争っているはずのケプカ。満面の笑みでハイタッチを求めてきて驚きました。
日本ツアーの「ダンロップフェニックス」で一緒になったときも、練習ラウンドで僕たちを見つけると隣のホールから猛ダッシュ。「日本に来られてうれしいよ。会いたかった!」とハグをしてくれたのが思い出です。
時として歯に衣着せぬ物言いが話題を呼ぶこともありますが、ロープ内で接してきたケプカは本当にナイスガイで“いいヤツ”。今回の優勝後も「キャリアを変えてくれた3人」の1人として別れて間もないコーチの名前を挙げ、しっかり感謝を伝える律儀な面もあります。
個人的にはとてもうれしい復活V。ライバルたちは内心穏やかではないかもしれません。メジャーの大舞台で抜群の勝負強さを発揮してきたケプカですから、敵としてはこれ以上ない怖い存在。世界トップレベルの選手たちから“嫌なヤツ”が調子を取り戻してきたと警戒されるのは、ある意味で勲章とも言えるでしょう。(解説・進藤大典)
- 進藤大典(しんどう・だいすけ)
- 1980年、京都府生まれ。高知・明徳義塾を卒業後、東北福祉大ゴルフ部時代に同級生の宮里優作のキャディを務めたことから、ツアーの世界に飛び込む。谷原秀人、片山晋呉ら男子プロと長くコンビを組んだ。2012年秋から18年まで松山英樹と専属契約を結び、PGAツアー5勝をアシストした。