昨年は途中棄権…松山英樹「今年は元気」
2014年 WGC HSBCチャンピオンズ
期間:11/06〜11/09 場所:シェシャンインターナショナルGC(中国)
注目の5ルーキーズ/ジャスティン・トーマス<佐渡充高の選手名鑑 138>
■ ベテラン撃破でプロ初勝利!
ジャスティン・トーマス(23)はウェブドットコムツアーの賞金ランク5位で、既に2015年シーズンのPGAツアー出場権を決めている。そして同ツアー最終4試合で行われるファイナルズで嬉しい初優勝を飾った。その試合はオハイオ州立大学コースで開催された「ネーションワイド・チルドレンズ・ホスピタル」。欧州ツアーをメインにプレーしていた南アの強豪リチャード・スターン(33)をプレーオフで撃破した。スターンと言えば欧州ツアー6勝、今季は「WGCキャデラック選手権」で4位と、実績あるベテラン選手。そんな選手を相手にプレーオフ1ホール目でバーディを奪い、あっさりとねじ伏せた。この勝利は今季、PGAツアーでプレーを続ける彼にとっては、大きな自信となっている。
■ オールラウンドなロングヒッター
トーマスのプレーを一言で表現するなら、“オールラウンド・ロングヒッター”だろう。それは2014年のウェブドットコムツアーの成績やスタッツに特徴を見出すことができる。優勝、2位、3位が各1回、トップ10は合計7回と、上位フィニッシュが多い。平均飛距離311.5ヤードで5位、バーディ奪取率は1位で、プレーの迫力や爆発力を物語るが、それだけではない。パーオン率も71.48%で17位と上位に名を連ね、弱点の少ないオールラウンドプレーヤーと言えるのだ。実際、オールラウンド部門のランクは1位。トーマスの高いレベル、そして安定したプレーを裏付けている。
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■ プロ3代 トーマス家の秘伝「マネージメント80%」
トーマスは1993年4月29日、米国中東部ケンタッキー州西部のルイズビルで生まれた。同地最大のイベントである競馬の“ケンタッキーダービー”、またバーボンの醸造やフライドチキンKFCの本部もある街で知られる。トーマスの父マイク(54)は、カレッジゴルファーで活躍しティーチングプロになった。祖父ポールも長年プロゴルファーとして活躍し、全米オープン、全米シニアオープンをプレーした経験を持つ。トーマス家は3代に渡り米国の主要競技に出場してきたゴルフファミリーである。父マイクは、同州にあるハーモニー・ランディングGCのマスタープロで、2007年から4年間は、米国プロゴルフ協会の役員を務めた人物だ。
トーマスは父の指導の元で、生後18か月でクラブを手にし、6歳から試合に参加するようになった。現在に至るまでコーチは父ただひとり。子供の頃から父に数々の秘伝を授けられてきた中で、もっとも興味深いのが“80%ルール”というものだ。「勝負はコースマネージメントが80%を占める。ティショット打つ際に、もうひとつオプションはないか?と考えることがダブルボギーなどの痛恨のミスを最小限にできる」と知略的な助言を受けてきた。アマチュア時代から接戦を勝ち抜いてきた“トーマス流ゴルフ”のひとつのセオリーとなっている。
■ BAMAのトーマス
トーマスは「パワー」「技術」「マネージメント」の3つを磨き上げ、実績を重ねてきた。ジュニア時代から脚光を浴び、2009年、彼が高校生2年生(16歳3か月24日)の時には、PGAツアーの「ウィンダム選手権」に出場し予選を突破、最終順位は79位タイだった。2011年には、米国南部にあるアラバマ大学に進学。大学リーグ初出場でいきなり優勝を飾り、「(ARA)BAMAのトーマス」と呼ばれはじめた。翌2012年には「全米学生」で最も栄誉あるハスキンス賞を授賞。2013年は、「学生選手権」で優勝し、母校は全米1位、彼はMVPに輝いた。昨年はジョージWブッシュ元大統領とプレーし、レッスンを施して話題を呼んだ。今年3月にはオバマ大統領の招待で、チーム全員でホワイトハウスを表敬訪問するなど、実力、タイトルもさることながら、話題を振りまくNEWS(ニュース)な男なのである。
■ スピースに追いつけ!追い越せ!
2014-15年シーズンが閉幕し、新人王はチェソン・ハドリーに決まったばかりだが、ゴルフ界では早くも今季の新人王候補は誰か?という話題でもちきりである。開幕前から最有力候補に挙がっているのがトーマスだ。同じ歳のジョーダン・スピース、マッテオ・マナッセロと“93年トリオ”として、彼の成長を楽しみに注目してきた。特にスピースのPGAツアーでの大躍進に刺激を受け、ライバル心を燃やしている。大学リーグでのランキングはトーマスが1位でスピースが2位。スピースは大学を2年で中退しプロ転向を果たした。昨年は初優勝を果たし、新人王に輝いた。今年はライダーカップに出場し、スター街道をまっしぐらに進んでいる。先を越されたトーマスは、長年のライバルであり、友人でもあるスピースの背中をとらえ、一気に追い抜くことを目論んでいる。
- 佐渡充高(さどみつたか)
- ゴルフジャーナリスト。1957年生まれ。上智大学卒。大学時代はゴルフ部に所属しキャプテンを務める。3、4年生の時に太平洋クラブマスターズで当時4年連続賞金王に輝いたトム・ワトソンのキャディーを務める。東京中日スポーツ新聞社を経て85年に渡米、ニューヨークを拠点に世界のゴルフを取材。米国ゴルフ記者協会会員、ゴルフマガジン「世界トップ100コース」選考委員会国際評議委員。元世界ゴルフ殿堂選考委員。91年からNHK米ゴルフツアー放送ゴルフ解説者。現在は日本を拠点に世界のゴルフを取材、講演などに飛び回る。