「最後まで楽しめるメンタル」「自分だったらあんなに…」プレーオフ直前に見た桑木志帆の強さ/解説・宮里藍&上田桃子
◇女子メジャー最終戦◇AIG女子オープン(全英女子) 最終日(2日)◇ロイヤルリザム&セントアンズGC (イングランド)◇6601yd(パー71)
2026年のメジャー最終戦を桑木志帆が制した。昨年の山下美夢有に続いて日本勢が「全英女子オープン」で連勝。日本女子ゴルフのレジェンド、宮里藍と上田桃子はU-NEXTの「日本勢徹底マークLIVE」チャンネルで初めて解説者として放送席で並び、快挙の瞬間を一緒に見届けた。
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―日本勢7人目の女子メジャー覇者が誕生
【宮里藍】(以下、宮里):今のメジャーでプレーする選手の皆さんの技術や感覚が、自分が現役でプレーしていたときと全く違うと改めて痛感しました。桑木選手が技術の高さはもちろん、この大きな舞台で最後まで楽しめるメンタルの強さをすでに持ち合わせていることが、ただただすごいと感じます。
【上田桃子】(以下、上田):解説をさせてもらいながら、私は14番ホールくらいからずっと緊張していました。最後まで続いた素晴らしいプレーぶりも、表彰式でのインタビューも、画面で様子を眺めながら、「自分だったらあんなに落ち着いてできるだろうか…」と考えていました。スピーチも含めて本当に素晴らしかったと思います。
【宮里】だいぶ早い段階で緊張したんだね(笑)。 私はプレーオフに入ってからだったでしょうか。まるで親になった気分で観ていて、感情移入し過ぎて疲れました。
―3打差の2位から中盤に首位を捕らえてプレーオフへ
【上田】スタートの1番(パー3)で第1打をグリーン右に外しながらパーを拾い、滑り出しは理想的でした。その後は5ホール近く続けて惜しいパットが続きましたが、無理をし過ぎることなくプレーする姿が印象的でした。一日を通して、ウェッジでショットできるときにピンを狙い、そのほかのケースでは広いサイドからバーディパットを打つようなマネジメントを徹底していたように思います。
【宮里】折り返しの9番(パー3)、ピンそば1mにつけてバーディにつなげたティショットが大きかった。同じ組のユ・ヘラン(韓国)選手がグリーン右手前にミスをした直後でしたが、気持ちに線を引き、自分のイメージを大切にして打ったのだろうと思います。簡単なことではありません。経験で時間をかけて補うべきもので、優勝争いの場面でそういった対応ができたことが素晴らしかったです。
―プレーオフ1ホール目、第1打を右のブッシュに入れながらパーセーブ
【宮里】最終組は桑木選手の組の2つ後ろで、クラブハウスリーダーでホールアウトしてから、長く待たされる時間がありました。ディスアドバンテージがあると思いましたが、ピンチで冷静に、ブッシュからあっという間にフェアウェイに刻んで3打目勝負を決断しました(3打目をピンそば1m強につけてパーを拾い、2ホール目に持ち込んだ)。その勝負強さは相手をやりにくくさせる。ちょっとした攻めの姿勢が、最終的には全英の優勝にもつながると改めて勉強させてもらいました。
―プレーオフが決まるまで桑木選手は練習をしなかったが?
【上田】気温が下がって寒くなり、正規のホールで頭もかなり疲れていたはずです。彼女は今週、「無理をしない、余計なことをしない、無駄なエネルギーを使わない」プレースタイルのままでした。(正規のホールで)前の組を待っている時に素振りを増やすわけでもなかった。打つ番が回ってきた時に、一気に集中できている様子がうかがえました。
【宮里】ひょっとしたら、(大会側の要請などで)練習したくてもできなかった状況だったのかもしれません。いずれにしても、プレーを楽しむことをテーマに、最後までそれを貫き通したことが素晴らしかった。ほかの選手のプレーを笑顔で見ている姿も好感を持てましたし、彼女が決めたことは、第三者にどうこう言われるべきものではありません。
【上田】今の選手たちはもう、“プレッシャーとの駆け引き”とは違うところで戦っている気がします。私はキャリアを通じて「メンタルをどうすべきか」といったところに力を注ぎ、最後まで克服できないまま終わってしまいました。桑木選手のきょうのプレーを見ていると、緊張している様子が全くなく、逆に心境を聞いてみたいと思うほどです。
―桑木選手がメジャーで見せた強さ、成長とは
【上田】彼女自身がもともと、こういうタイプの選手だったわけではない気がするんです。試合を重ね、経験を重ね、誰かからの影響を受け取って、自分でトライアンドエラーを繰り返して今のスタイルにたどり着いた。技術的なものだけでない、いろんな角度からのトライがあった上で優勝につながったはずです。
【宮里】同じブリヂストンスポーツ契約の選手ということもあって、数年前に(国内女子ツアーの大会で)座談会に参加した時、お話をしたことを思い出します。まだ桑木選手がツアーで初優勝する前のことでした。会話の中で、自分に必要な情報を的確にピックアップできるセンスを彼女から強く感じました。ショットのデータをアプリに反映させたり、トレーニングを中心に体重を落としたり、様々なことを計算しながら努力してきた。彼女を支えるチームのスタッフの方々も、きっと同じ方向を向いてきたのだと感じます。きのう、きょうで実現した快挙ではなく、きちんとした裏付けがあったはずです
―桑木選手は国内ツアー「宮里藍 サントリーレディス」で優勝して出場権を獲得した全英女子で優勝
【宮里】もう、ありがたい、ありがたいという感じです(笑) 6月の「全米女子オープン」で自分のスタイルが通用するという手応えを感じてから、わずか1カ月半でこんなにゴルフが変わるのかと驚きます。メジャーでしかできない経験の重さのすごみも改めて思い知らされました。
―メジャー制覇で米女子ツアーのシード権を獲得
【上田】やはりプレーオフで勝つのと負けてしまうのでは、現実的にかなりの差が出ます。渋野日向子選手もそうでしたが、大きなチャンスが到来して勝ち切れたことで、キャリアのレベルを上げる勢いがつくことでしょう。変に考えすぎて、気持ちにブレーキをかけることなく、右肩上がりの波に乗って頑張ってほしいと思います。
―直近3年で女子メジャー通算5勝 日本勢の強さの秘密は?
【上田】「どうしてこんなに強いんだろう」と私も疑問に思います。もう想像の範ちゅうを越えている。要因はいくつもあると思います。昔では考えられないほど早く、情報を手に入れられるようになったり、桑木選手のようにデータを蓄積できる時代にもなった。藍プロをはじめ、先輩選手たちがいろんなことを見せてくれてきたことも大きい。渋野さんが全英女子で優勝してから、岡山のジュニアゴルファーもすごく増えたそうです。近い世代、身近な選手たちが周囲に良い影響を与えてくれています。
―今後の日本勢への期待は?
【宮里】あとは…世界ランキング1位になる選手が早く出てきてほしいですね。ネリー・コルダ選手、リディア・コー(ニュージーランド)選手のような揺るがない支配力を持ち合わせた強さが備わるかどうかが、これからの日本選手の課題になると思います。母国でない国で戦うというハンディキャップは確かにあります。私たちがプレーしていた時代とはゴルフというスポーツそのものの在り方が違う。五輪種目にもなり、スポーツとしての格も上がった。その中で、選手たちがより進化するためには、もう一つ、二つ大きな壁があるのではないかと思います。今はまだその壁がどういったものなのかは分かりませんが、乗り越えて、頂点に立ってほしいなという気持ちです。