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<2010年の賞金王が切実なお願い。「鬼と呼ばないで…!」>

発端は2007年だった。日本でのプロデビュー戦を飾った11月のダンロップフェニックスで、初日にいきなりの首位発進。当時はまだ、まったく日本語が話せなかった金庚泰キム・キョンテ)は通訳として、同じ韓国出身のドンファンを伴って、会見場にやってきた。

そのとき、ドンファンが報道陣に教えてくれたのだ。「キョンテは母国で“鬼”って呼ばれてるんですよ」と。2006年12月にプロ転向を宣言するなり、母国ツアーで3勝をあげて賞金王に輝いた金。さかのぼってアマチュア時代は、まさに負け知らず。2006年の日本アマ連覇を達成したばかりか、同年のアジア大会では個人、団体ともに金メダルを獲得した。また、プロの試合でも大暴れ。その年の韓国ツアーでプロを抑えて2勝を上げるなど、まさに向かうところ敵なし。

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ひとたび金が首位に立てば、国内では追随する者は誰もいないと怖れられ「だからそんなあだ名がついたんですよ」と、流暢な日本語で教えてくれたドンファンの傍らでは、金は終始、あのいつもの静かな笑みを浮かべていたものだ。もしも、あのとき多少なりとも日本語が話せたら、本人がその場で訂正を入れていたかもしれない。「だって、僕は背が大きいわけでもないし、飛ぶわけでもない。誰が見ても“鬼”というような、迫力のある雰囲気じゃないでしょう?」と、金は笑う。「あれは、実は最初に韓国のメディアのみなさんが言い出したことなんです。デビューするなり優勝したもんですから、僕の強さをそう言って表現してくださったようなんですが…。まあ、そうですねえ。鬼というよりは“怪物”というか、そういうニュアンスで訳したほうが、良いのかなと僕なんかは思うのですが」。

石川遼池田勇太との賞金レースを制して今年、韓国勢として初の賞金王の座についた記者会見で、金はそんな解説を加えたものだ。そして賞金王が改めて、報道陣の前で切実な(?)お願い。「これからは“鬼”と呼ばないでいただければ…」。そう言って、おどけた風に両手を合わせ、柔らかく微笑んだ。

そうはいっても、今年は初優勝から一気に年間3勝をあげたばかりか、21試合に出場して一度も予選落ちなし。最低順位は33位で、ほかは20位内を外したこともなく、最後までバツグンの安定感で頂点に立った。あの勢いを持ってすれば、来季もあいかわらず“鬼”のような活躍は続くだろう。

将来の目標は、米ツアーでの活躍だそうだが「あと2、3年は日本で頑張りたい。日本が大好きなので」という金。「来年は日本ツアーのほかに、韓国でも優勝したい。もう3年も勝っていないので」と、来季の目標もあいかわらず控えめだが、ひとたびコースに出れば、まさに“鬼”のようにピンを刺す。そのギャップが一番の魅力でもある。

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