「8130yd=PGAツアー最長」は“本当”か 過去には日本人が3位に入った高地コース
2024年 BMW選手権
期間:08/22〜08/25 場所:キャッスルパインズGC(コロラド州)
富士登山の8合目 北米で一番“天国に近い”ゴルフ場に響いた「マツヤーマー!」
2024/08/25 11:37
「BMW選手権」が行われたキャッスルパインズGCの標高は、平均で約1889m(6200フィート)にも及ぶ。空気抵抗が少ない高地ではゴルフボールがよく飛ぶため、世界トップレベルの選手でもショットの飛距離を合わせるのに一苦労。そして、同じコロラド州内にはさらに空に近い、北米で最も高いところにあるゴルフ場が存在する。
キャッスルパインズGCから直線距離で南西に130㎞あまり。マウントマッシブGCは大都市デンバーから約2時間、自動車でアップダウンを何度も繰り返した先にあった。リードビルという町にほど近く、その標高はなんと3094m(1万152フィート)。富士登山で最もポピュラーな吉田ルートでいうと、8合目に相当する。
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小さな平屋建てのクラブハウスを備えた9ホールのゴルフ場が、「山岳コース」だとか、「丘陵コース」と思うなかれ。ロッキー山脈に囲まれた平原のティイングエリアからは、どのホールでもグリーンを望めるフラットなつくりだった。
スコアカードによると、すべてのホールで一番後ろのティを使っても9ホールで3150ydほど。その数字は、空気の乾いた高地にあるおかげで体感はもっと短くなる。「高度1000フィートごとに飛距離が1.7%伸びる」という一般的な公式を当てはめると、海抜ゼロの土地で打つよりも17%も遠くに飛ぶ計算に! 看板にも「前の組に打ち込んでしまうかもしれないと思って注意して」と但し書きがあった。
誰にとってもベストスコア更新のチャンス到来に違いない。クラブハウスにいた女性マネジャーが笑っていた。「(大西洋に面した)カロライナ地方から来た人が、すごく良いスコアを出したの。でも、地元に帰って仲間と一緒にプレーしたら『誰も信じてくれない』って」
北米一の高地コースの原型は1930年代にできた。雑草のフェアウェイと砂のグリーンで楽しまれた時期を経て、70年代に灌漑設備が整備されグリーンが緑に。地域からの寄付金等も原資にして細々と営業しつつ、現在はパブリックコースにして400人近いプレー会員がいる。プレー料金は週末で9ホール38ドル、18ホールで55ドル(カート利用は別料金)。12歳以下の子どもは大人と一緒なら無料だ。
マイルハイシティと呼ばれる海抜1600m(1マイル)のデンバーよりも夏場は10℃以上気温が低い日もある。日照時間が長いため8月は午後6時までティタイムが用意されているが、山の冬は長い。営業期間は例年、雪がない5月半ばから半年ほどしかない。
午後4時過ぎ、心地よい風に誘われコースを散策していると、3人組の男性がスタートしていった。パー3の2番ホール。ひげの長いおじいさんが8m近いパットを沈めた。高々とガッツポーズをしながら発したのは、まさかの「マツヤーマー!」の声…。
背中越しで目を丸くしていたこちらが日本人だと知るや、「マツヤマ(松山英樹)は先週の試合(フェデックスセントジュード選手権)でパットを決めまくっていただろう。今週(BMW選手権)は棄権したな。腰痛だって? あと、ワシの好きな選手はトミー・ナカジマ(中嶋常幸)だ」なんて言うではないか…。
捏造すら疑われかねない、原稿におあつらえ向きなこのおじいさん、聞けばコースのクラブチャンピオンに4回輝いたというゲーティン・マルティネスさん。御年61歳にして、ぶんぶん振り回す1Wの飛距離は250ydを誇る。「“このコースなら”な! 隣のパー4では300ydをワンオンしたこともあるぞ」。ゴルフの「飛ぶ」は、いつまでも人を元気にするらしい。
高くした目線の向こう、見渡す限りの大パノラマの中に万年雪を抱いたひと際大きな山があった。陽の光を集めた雨雲が白く輝きながらゆっくり動いている。コースの名にもなったマッシブ山(マウントマッシブ)の標高は4398m(1万4428フィート)だという。かなり登ってきたつもりでいたけれど、ずーっと高い山はいくつもあるんだなあ。(コロラド州リードビル/桂川洋一)
桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw